村上香住子のエッセイの魅力はまずは話題の面白さにある。そのことは愛猫銀次をめぐるエッセイでも共通していることだったけれども、「のんしゃらん」におけるその話題たるや、なのである。例えば「勝手にしやがれ」を名画座で見つめる高校生だった自分にとって、文字通り異次元の世界の人々にまつわる話など、フィクションじゃないとしたら、その人生の肥やしの豊かさにうらやましさを通り越して、ただただ興味をひきつけられてしまう。そんな話題の提供の上手さが確かにある。
しかし実は村上さんのエッセイの面白さは当然そんな週刊誌的興味をそそる話題性ばかりにあるわけではなく、文章の魅力にあると言ってもいいと思う。なめらかさ、としか言い表せない味わい。まるで最新の流行を紹介するかのごとく、ちょっと気取った言い回しの中に、急に置き忘れたかのようなべらんめえな言葉。ああ、この人は実に沢山の引き出しを持った人なのだなということが、一度も会って話をしたことがなくても伝わってくる。
例えば、子供の頃に見たテレビ番組の兼高かおるのイメージがどうしても重なってくる。上品さを保ちながら、自分の足で世界中どこへでも出掛けて行き、自分の言葉でものごとを伝えてくる術を持った人、という印象だ。
まあ、逆に言うと、そんなエスプリの在り方を否定するようにインチキを積み重ねて泥臭くやって来たのが自らの人生観であるので、今更そんな品格云々の話をするのもなんだかなあ、というのは百も承知なのだけれど、須賀さんとか村上さんとかの話に近頃は無防備にするすると近寄ってしまっている自分に、はっと気付くことがおおくなったような気がするのである。
- 感想投稿日 : 2008年2月9日
- 読了日 : 2008年2月9日
- 本棚登録日 : 2008年2月9日
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