最初の悪い男 (新潮クレスト・ブックス)

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本棚登録 : 536
レビュー : 53
制作 : Miranda July  岸本 佐知子 
ぱとりさん  未設定  未設定

『彼はぼくこわいよと思うこともできない、「ぼく」ということも知らないのだから』

このちょっと世間からずれている主人公にミランダ・ジュライを投影しないでいるのはとても難しい。「君とボクの虹色の世界」、「フューチャー」の主人公のその延長線上に(あるいは同じ位置にと言った方がいいか)この本の主人公は位置しているのだから。コケティッシュという表現は最近余りに耳にしないけれど、正にその言葉が真っ先に頭に浮かぶあのミランダ・ジュライの顔を主人公に貼り付けずにはいられない。

SNSで時々披露される作家自身を写した映像の少々痛い感じ(その言い方は余り好きではないけれど)、それらは主人公の言う所の「システム」を彷彿とさせずにはいられない。例えば車から箱を抱えて降りてきた彼女が転んで箱をぶちまける映像などに感じる「あざとさ」のようなもの、あるいはロンドンのホテルでの怪しげな行動から感じる「迷子の気持ち」のようなもの。それらはシェリルの心の中のつぶやきによって説明可能となるもののように思う。そして漸く、そういうことか、と理解されるものであると感じる。もちろん、その映像は偶然を捉えたものではない。作家の表現の一つである。全て計算されたことであるとは思いつつ、そこにどことなく漂う「よるべなさ」は、作家の個人的な趣向や価値観の根幹を成すものであって、それが作品に滲み出ていると考えた方が自然であると思う。

ミランダ・ジュライを読み始めた切っ掛けは岸本佐知子であるのは言うまでもない。彼我の差はあれど、自分の中でこの翻訳家はどこかしらミランダ・ジュライと通じ合う「変」さがある。「気になる部分」を読み返してみたらきっとこの作品のシェリルそっくりな逸話が見つかる筈と思う。その翻訳家の趣味嗜好がぎっしり詰まった翻訳私花集「変愛小説集」の二冊目でミランダ・ジュライは強烈な印象を残した。以来翻訳を待てずに読んで来た作家ではあるけれど、この作品は岸本佐知子によるトランスレーションを待たずには消化し切れなかった作品。とてもジェンダー・オリエンテッド(性別志向性とでも言うのか)が高い作品だと感じる。特にセクシュアリティの表現のされ方に、男性目線を模した女性性の主張のようなものを強く感じる。同じ翻訳家の手になるニコルソン・ベーカーのフェルマータが男性性を強く意識させるのとちょうど正反対であるように。その敷居の高さが少しだけミランダ・ジュライを近寄り難くさせる。シリアスな顔のミランダ・ジェニファー・グロッシンガーに初めて出逢った気にさせる。いつもに増して岸本さんの翻訳が光る。

レビュー投稿日
2018年11月11日
本棚登録日
2018年11月11日
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