雲の上はいつも青空 ~ハービー・山口 フォトエッセイ~ (玄光社MOOK)

  • 玄光社 (2011年3月16日発売)
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感想 : 6
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ハービー・山口は喋りすぎている。彼が言葉にしようとしていることは、ほとんど彼の写真の中にすでにあると言ってもよいのだから。敢えて言葉にしてしまうことで逆に何かが失われてしまわないかなとも思ってしまう。それ程に写真は雄弁だ。言葉はどんな時でも大概は少し不器用にしか言いたいことを再現できず、言い過ぎたり言い足りなかったりするものだ。だから写真に語らせたのなら、それでもう充分じゃないか、と自分の中で理屈が並ぶ。

でも、それは単に勿体ぶって自分をよく見せようという浅ましさの理屈なんじゃないか、と気付いてはっとする。そしてそれはとても冷酷な態度でもある。読み取れない人は読み取らなくてもよい、という裏腹を抱えた態度でもあるのだから。もちろんハービー・山口の写真はとてもまっすぐに何かが伝わってくる写真で、何も読み取れないなんてことは起こりそうにもないけれど、それでも敢えて言葉にするのは、きっと彼の暖かさなんだろうと思う。

そう書いてしまうと、なんだかとても陳腐な感じがしてしまうけれど、彼の写真の中の人物を見れば、それが何を意味しているかはきっとこんな言葉よりももっと直接的に解る筈だと思う。

そんな写真に意識を取られながらエッセイを読んでいると、この写真家が如何に世界に対して自分を開いているかということがよく解る。でなければこんな表情を撮れる筈がないだろうということは写真を観ただけで直感的には解ってしまうことだけれど、今更ながらに言葉の中にその事実を見出して大きく心が揺さぶられる。彼我の違いを振り返っても始まらないことではあるけれど、自分は閉じているなあ、と思い知らされる(自分も写真を撮るのは好きだけれど人を撮るのは苦手、、)。

いいなあ、ハービー・山口の写真。そしてこの少々おせっかい染みたエッセイも。「僕の虹、君の星」では気取った風もあるかっこよさに魅せられたけれど、この写真解説本のような本の中の実直なハービー・山口の姿勢もまた別の意味でかっこよい。写真の中の笑顔だけでなく、カメラを構えてファインダーを覗き込みながら微笑んでいる写真家の口元の笑みまで見えてきそうな、そんなフォト・エッセイ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2011年5月3日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年5月3日

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