いつか取るだろうと思っていたがこの間やっと直木賞を授賞した恩田陸さんの作品を読了。
この作品は読むのがつらい人もいるだろうなあと思ったのが第一印象。非常に実験的な作品だからだ。まず事件はというか事件とされたものは脚本家がパーティで毒殺されるというお話で、その作品のオーディションに呼ばれていたタイプの違う3人お女優達の作中劇での語りが物語を形作って行く。
同じシーンを3人が自分の色を加え演じ分け、お話を作り上げて行くので冗長と感じる人もいるかもしれないが、そこに描かれた女性の中に住む小さなモンスターの影がちらりちらりと感じられるのが実は怖く、同じシーンの演じ分けの妙にぞくぞくっとした。
女優達の演技により一人の男の死にまつわる謎を色々な角度から突き詰めて行き真実がどこかで明かされるだろうと思い読み進むのだが、読み終えようとするそのときになって読者は作者から見事操られていた事に気付くという作品になっている。
それはミステリはある結論というか一つの事実でもって話の結論を迎えるのが普通だとおもうが、この作品では台本、旅人、中庭と複雑なるあらゆる視点から真実に近づこうと一瞬しているように見せながら実はお望みの結末を求めて思い込みを深めているのが読者である自分だけであり、結論とされる事実はいくらでも作り出せるものなんだと言う事に気付かされるとてもびっくりの結末があるのも面白い。
ミステリーの作り込みの際に陥ったどつぼの状態をそのまま読者にぶつけたともいえるが、此の様な実験的な物に取り組む勇気と構成力の高さを持っているから直木賞作家にもなれたのだろう。天邪鬼と言われるのが嫌いではない方は読んでみては。
そんなミステリーの定石を見事に捨て去っている希有なミステリ作品を読むBGMに選んだのがJan Lundgrenの"Charade"。ジャケ買いした作品だけどあたりです。
https://www.youtube.com/watch?v=wFjfhwYQY_I
- 感想投稿日 : 2017年3月30日
- 本棚登録日 : 2017年3月20日
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