解説に私小説とミステリとの融合とあったが、確かにその通りであって、男性が書いたとは思われないくらい、女子大学生の主人公の周辺の細々した日常や内面の描写が多かった。他にもほのぼの日常系ミステリといったものはあまたあるかもしれないが、本書はより女性の主人公の個人のパーソナリティに注目し力点を置いているように感じた。
うまく理由を説明できないが、何となく、東京から離れた、おそらく作者の出身地をモデルにしているだろう埼玉の町に実家があって、そこでの家族との様子や近所付き合いから謎に発展し、それを東京で円紫さんと会って解決する、というパターンがいくつかの短編で共通していて、その形式がとてもしっくりくる。それはなぜだろう。
本書に登場する「謎」は、いずれも殺人事件だとか(見かけ上は)凶悪なものではないが、毎回人間の醜さや弱さ、怖さを浮き彫りにすることもあるし、またそれとは逆に温かみや人の生の重みを感じさせることもある。円紫さんによって、それまでは謎は謎のまま済ましているようなことが、明らかになるのだが、おそらくこれが東京都内で一人暮らしをしている主人公の設定であれば、もっと違った印象を受けたのではないかと思う。埼玉県の方には悪いが、ちょっとした「田舎」を挟むことによって、一つ一つのエピソードが都会の慌ただしさの中に埋没せず、しっかりと実感できるように仕立てられているように私は感じた。奇妙な感想かもしれないが…。
概して、理詰めが中心の推理小説の側面と、感覚的・叙情的な文学少女の私小説的側面が、東京での人間関係と実家での私生活の描写でうまく描き分けられ、融合されている、非常に素晴らしい小説であった。どうして同氏の作品を今まで読んできていなかったのか。恥ずかしいことだと言わざるを得ないだろう。
- 感想投稿日 : 2019年8月24日
- 読了日 : 2019年8月24日
- 本棚登録日 : 2019年8月24日
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