
『音に聞く』
音楽の都を舞台にして、「言葉」と「音」をテーマに描かれた作品である。
「言葉」に魅せられた翻訳家の姉、ほとんど言葉を発さず、作曲にだけ異様なほどの才能と情熱をもつ妹。十数年ぶりに再会した父は、姉に対しにべもなく、この街では言葉など音に勝るはずがないと語る。姉は自ら作品をものする詩人などに憧れを抱いているが、自らの才能を信じておらず、翻訳家業に甘んじている。父からは「音」の絶対優位を説かれ、彼は妹にしか関心を払わないようにさえ思える。妹の圧倒的な「音」の才能に嫉妬も覚える…しかし最後に妹の完成させた曲は、「音」がそれだけでは存在し得ず、言葉と結びつくことによって初めて無上のものとなることを示すものだった、それはすなわち対になる姉妹の和解でもある
…といったことを表現したいのだろうかと感じたが、難解であった。
上記に書いたような大きなテーマは全編に通底していると思ったが、アルヴァ夫妻の役割などがよく掴めなかったように、本来は、小説の中で新たな人物の登場や物語が進行するにつれて、新たな主題の展開がされるようにも思うが、場面が切り替わっても結局のところ同じ主題を繰り返しているようにも感じてしまった。
音楽に関する知識に乏しいため、描写されている曲や他言語の音の響きなどに想像がおよびにくかった。
- レビュー投稿日
- 2020年1月6日
- 読了日
- 2020年1月6日
- 本棚登録日
- 2020年1月6日
『文學界 (2019年9月号)』のレビューへのコメント
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