新潮 2020年 03 月号 [雑誌]

  • 新潮社 (2020年2月7日発売)
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感想 : 9
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「首里の馬」

未名子という主人公が、沖縄のある街にある古びた「資料館」で、無償のお手伝いのようなことをしている。誰からも顧みられない、むしろ気味悪がられるような建物。また主人公には、奇妙としか言えない仕事がある。宇宙空間なのか、または深海の底なのか、そんな場所で独り暮らす人たちへ「問題」を出題する仕事。そして、台風とともにやって来た、「首里の馬」。
資料館にしても、問題にしても、それから馬にしても、情報や知識のかなりの集積と言えるのに、世間の誰からも注目されていない。にも関わらず、同じく孤独な主人公は、資料館の資料をひたすらスマホでデータ化する。出題の相手から得た知識で、今はほとんど希少な存在の馬を乗りこなす。はじめは本能的だったものが、資料館の解体と相まって、自覚的に、今見ている、得ている出来る限りの情報を記録しようというモチベーションに気付く。
ネット社会の現代で、どこか不思議にアナログっぽく情報を得ていく様が面白いと思う。
あと、順さんを怖がる世間といい、未知子を怖がる電気屋といい、確かに、得体の知れない情報の集まり、というものに人は敏感だというのもテーマだった。ネットでググれるような情報は誰も警戒しないが、目的が不明確なまま集められた情報は怖がられる。
世界の極地にいる人たちへ渡された情報は、おそらくほとんど誰の役にも立たない。にも関わらず、未知子はそれを「出題」した。知ってほしいと言うより記録しておきたいという欲求は、よく伝わってきた。
だが、出題の仕事や馬の登場などの部分部分がユニーク過ぎてそこに目がいきすぎるきらいがあるような気がした。
題材としてはとても面白いので、何かがおしいような気もする…。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年7月13日
読了日 : 2020年6月29日
本棚登録日 : 2020年6月29日

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