パラダイス・ロスト (角川文庫)

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本棚登録 : 2368
レビュー : 268
著者 :
制作 : 森 美夏 
Pipo@ひねもす縁側さん 驚きとともに読んだ本   読み終わった 

文庫化をすっかり忘れていて、慌てて手に取った『ジョーカー・ゲーム』シリーズ第3作。

今回の短編はどれも、舞台に国際性がさらに加わって、厳しくも華やかな雰囲気がたちのぼる。ナチスとの戦端が開かれ、総力戦へとなだれ込む欧州や、国際紛争のエアポケットとなるシンガポール、いまだ中立のはずの太平洋上。どのエピソードも、わずかな時間や空間の中でのものだろうが、その短さを感じさせないほど張りつめて美しい。読んでいる最中の感覚は、自分の真正面で行われるクローズアップマジックを、じいっと息を詰めて見ている感覚に似ている。

私がこのシリーズを好きなのは、各登場人物に過剰なキャラを求めず、文章と作品の描く世界から漂う空気だけですべてが出来上がっているからだと思う。D機関の「魔王」、結城中佐という強烈すぎるキャラがあるといえばあるのだけれど、彼の実像はあってないようなものだし、彼が選び抜いた配下のスパイたちにも、実像は求められていないというドライさがいい。個人的には、彼らのその実像の見えなさを使った『誤算』『追跡』が好み。

勝手な想像だけれど、D機関のスパイたちは百戦錬磨というものの、いくつかの任務を終えたのち、結城中佐のもと、ひいては軍から去っていくのだろう。D機関に「死ぬな、殺すな」のモットーがあるから生き残るというのではなくて、おそらくは自分なりの立ち位置を見つけて、負けない形で軽やかにゲームから下りていくのだろう。どの短編の締めかたにもその感覚はあるんだけれど、『暗号名ケルベロス』の幕切れでは特にそう思った。

第1巻を読んだときの高揚感が蘇ってきて、思わずイッキ読みしそうなところを、もったいなくてブレーキをかけつつ読み終わった。あー、やっぱり国際謀略ミステリはいいなあ!大野雄二や菊地成孔といった、派手やかなホーンの鳴る音楽と一緒に楽しみたくなる短編集でした。

レビュー投稿日
2013年7月25日
読了日
2013年7月25日
本棚登録日
2013年7月22日
3
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