迷宮

著者 :
  • 新潮社 (2012年6月29日発売)
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本棚登録 : 537
感想 : 93
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これは、あなたについて書かれた本です。
あなたの人生が書かれています。
あなたの性質、あなたの秘密、人にちょっと言えないこと、人に絶対言えないことが書かれています。
あなた自身もまだ気づいていない、あなたの本性・・・読みますか。

言い訳をしてみてください。あなたの存在に対しての言い訳を。
客観的に誰もが納得できる言い訳を。

(本文より抜粋)


とある迷宮事件の遺児と出会い、彼女の得体のしれない陰鬱の中にのまれていく、という話だが、
やはりいつものごとく私が惹かれるのは内容そのものよりもその根底に流れている暗い暗い川である。

自分は新見ほどの大きな陰鬱は持ち合わせていないが、
だれしも少なからず心に秘めた鬱鬱としたものがあり、
(果たして本当にそういったものがない人などいるのだろうか?)
それはまるで忌むべきもの、というように皆ひた隠しにして毎日を生活している。

落ち込んでいる人がいたら、元気だそうよ!と、励ますのが正解。
暗い話をするより、楽しい話をするのが正解。
死を選ぼうとする人は止めるのが正解。

だが、この世界の正解に、うまくなじめない時だってある。
人間なんだから、陰と陽があって当たり前で、
陰の部分をもっとちゃんと消化することができたら。
この違和感を。

新見が暇を埋めるために娯楽を詰め込む場面や、
笑いで違和感をごまかす場面は読んでいてやりきれなさを感じずにはいられなかった。

『世界の本当は、残酷で無造作で無関心なんだって。』

この事実を意識している人間がどれほどいるだろうか。

『本当の賢さとは世界を斜めから見ることじゃない。
日常から受けられるものを謙虚に受け取ることだ。』

何のために生きるのか、
生きるとは何なのか。

そんな疑問が、乱暴に眼前に迫ってくるような小説。あいかわらず。

暗くなるなぁ、、、やっぱり、この人の本。笑


ラストは一見、ハッピーエンド感漂う終わり方だが、
私個人としては違うと。
コーヒーのくだり(世界の幸せを象徴したような)に未だ違和感を感じていることや、
最後のデュエットの表現。
彼は決して、この言葉を、一度も良い意味では使っていないから。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2012年11月4日
読了日 : 2012年11月3日
本棚登録日 : 2012年10月24日

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