二足歩行と脳拡大の代償
ヒトが他の動物に比べてなぜ難産となったのかをコンパクトにまとめた本。
100ページほどなのですいすいと読める。
ヒトのお産を考えるにあたって、要点を押さえた好著である。
著者の専門は人類進化学・考古人類学。『ネアンデルタール人類のなぞ』(岩波ジュニア新書)といったジュニア向けの著書もある。
本書は大学で好評だった講義を元にしたものだという。
お産が重いのはヒトだけで、安産で知られる犬はもちろん、野生動物はお産が軽い。チンパンジーやニホンザルといった霊長類ですら、お産で痛がる様子は観察されていない。
こうした違いが生じる理由は、胎児の頭骨と産道の大きさの比による。
直立歩行により、ヒトの背骨はS字に彎曲した。また骨盤は内臓を支える役目を負い、幅が広くなり、底部に筋肉が発達した。二足で歩くため、お尻の筋肉である大臀筋も発達した。さまざまな要因から結果として産道が小さくなってしまった。
骨盤の形状には性差があるものだと思っていたが、これはヒトだけなのだそうだ。進化とともに、少しでもお産を軽くする方向に発達してきたのである。
一方で、胎児の脳は大きくなる。お産の負荷を少しでも減らすために、大泉門・小泉門といった、頭骨が膜だけでつながった部分が発達し、頭が可塑的に小さくなるしくみができたが、いかんせん、それだけでは難産を回避するのに十分ではない。
こういった事情が、ヒトや猿人、多様な動物の骨格や骨盤の図とともに、わかりやすく解説されている。
このほか、古今東西の出産事情も興味深い。
出産時の体位はさまざまであるが、多くは座位や立位だったようだ。現在、日本で背臥位が主流になっているのは、病院での出産がほとんどになったためである。産婦に都合がよいのではなく、介助者が介助しやすい体位なのだ。
帝王切開や無痛分娩についての記述も簡単だがわかりやすくまとまっている。
出産土偶や縄文時代の土器に描かれた出産図も興味深い。
お産についてちょっと考えてみようという際には適度な1冊だろう。
- 感想投稿日 : 2012年10月3日
- 読了日 : 2012年10月3日
- 本棚登録日 : 2012年10月3日
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