かたづの!

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本棚登録 : 800
レビュー : 123
著者 :
ぽんきちさん 時代小説   読み終わった 

青森・八戸に南部氏という一族がいた。清和源氏の末裔という。
鎌倉から続く家柄であったが、江戸初期、当主と幼い世継ぎが相次いで命を落とす悲運に見舞われる。親戚筋でもある三戸南部に吸収されるかに思われたが、夫とわが子を失った若妻・祢々は、夫に代わり、八戸根城の主人となることを決心する。
これは、江戸期唯一の女大名、祢々(清心尼)の物語である。

著者初めての時代小説である本作は、しかし、そんな前置きが想像させるような、鹿爪らしいお話でも小難しいお話でもない。
何せ、語り手は、少しおっとりした羚羊(カモシカ)の「角」なのだ。
祢々と夫が結婚してまもなくの頃、角が一本しかない珍しい羚羊が、祢々の前に姿を見せる。一本角の羚羊は、土地の伝説から「天竜の片角(かたづの)」と呼ばれ、祢々のお気に入りとして、城に出入りするようになる。祢々のよき友となり、やがて生まれた子供たちのよき遊び相手にもなった。羚羊としての命が終わった後も、魂は角に宿り、南部の秘宝「片角」として祢々の近くに仕え、その危機を救うことになる。

小柄ながら度胸のある祢々は、次々と生じる難問を解決し、「殿様」として八戸を統べていく。美しく気っ風のよい祢々を慕うのは、羚羊だけではない。河童も小猿も、土地に残る怨霊も、影に日向に祢々を守り、困難から救う。
腹黒く、野望を抱く叔父。血気盛んな家臣たち。娘の悲恋。老母の死。遠野への国替え。
さまざまな困難を乗り越えても、なお襲いかかる難事に、祢々は時に悪態をつきながら、時に涙しながら、しかし敢然と挑んでいく。

本作は、時代小説でありながら、遠野や八戸の伝承・伝説を巧みに織り込んだファンタジーでもある。2つの融合を可能にしているのは、みちのくという土地の持てる力でもあるだろう。
著者の筆は、実在のものに少しずつフィクションを混ぜ合わせるさじ加減が嫌みなく、絶妙である。豊富なバックグラウンドがありながら決して押しつけがましくならずに御する「力量」が生む「爽やかさ」が感じられる。
幾重にもオマージュが重ねられ、フィクションの世界に遊ぶ楽しさを存分に味わえる。

長い時を経て、祢々も疾うに世を去り、片角は江戸城のあった町にいる。見せ物となる予定の場所で、片角は西洋のタペストリーに出会う。身分の高い女性と、側にそっと寄りそう一角獣。まるで、あの方と私。織り込まれた文には、「我が唯一の望み」と書かれているという。あの方の望みは、そして私の望みは何だっただろう。
片角の想いはふるさとへと飛ぶ。
そして読者もまた、物語の幕切れに、遠野へ八戸へと誘われるのだ。潮風で胸を満たし、雲海に遊び、羚羊や河童、ももんがと戯れる。
河童や片角を育んだ風の香りを、遥かに思い描きながら。

レビュー投稿日
2015年2月7日
読了日
2015年2月7日
本棚登録日
2015年2月7日
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