英ミステリ作家、コリン・デクスター(1930-2017)による、モース主任警部シリーズの1作目。
モースは、「英国で最も好きな探偵」第1位に選ばれたこともあり、イギリスではシャーロック・ホームズを凌ぐ人気があるとも言われるのだそうである。
本シリーズは長編13作、短編集1冊が刊行され、モースの死によって完結している。
本編もドラマ化されているが、近年、若き日のモースを主人公としたテレビシリーズが制作され、日本でも一部が放送された(『刑事モース〜オックスフォード事件簿〜』(原題は"Endeavour"。モースのファーストネームで、原作の壮年モースはこれを明かしたがらず、ネタの1つになっていた))。原作者もコンサルタントとして制作に参加している。時代背景は異なるが、全体としてのテイストはかなり似ているようである。
さて本作。シリーズの他の作品同様、舞台はオックスフォードである。
2人の若い女性が、ウッドストック行のバスを待つ夕暮れ。なかなか来ないバスにしびれを切らした2人は、ヒッチハイクを始める。その夜、そのうちの1人が死体となって発見される。
2人を乗せた車はどこだ? そしてもう1人の娘はどこへ消えたのか?
モースのアクロバティックな推理が展開される。
メインストーリーの謎は謎としておもしろいのだが、読んでいて思い出すのはクロスワードパズルである。縦のカギ、横のカギが示唆する単語の謎。さまざまなヒントを元に、最終的にはすべてのピースが組み合わされる。暗号やアリバイ、状況証拠。小さな手がかりからいくつもの仮説が立てられ、取捨選択されていく。
著者はクロスワードパズルづくりの名手でもあり、その片鱗があちこちに姿を現す。博識・多読の人でもあったようで、コールリッジやダウスンの詩が散りばめられているのも味わいを増す。
全般に惜しげもなく多くの要素を詰め込み、一度ではすべてを味わいきれないほどである。再読に耐えるとする人が多いのも頷ける。
ミステリとしての味わいに加えて、オックスフォードの美しい街並み、モースの実らぬ恋、不倫や家庭の不和といった人生のままならなさもまた、本作の厚みを増している。
真犯人に至る謎解きの出来にはいささか疑問が残らないでもないが、英国パブの重厚な雰囲気を思わせる、薫り高いミステリである。
- 感想投稿日 : 2018年5月21日
- 読了日 : 2018年5月21日
- 本棚登録日 : 2018年5月21日
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