高校生のための人物に学ぶ日本の科学史 (シリーズ・16歳からの教養講座 3)

制作 : 池内了  公益財団法人国際高等研究所  高橋義人 
  • ミネルヴァ書房 (2021年1月13日発売)
3.00
  • (0)
  • (0)
  • (3)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 18
感想 : 2
3

シリーズ・16歳からの教養講座の1冊。全3冊で、思想史、政治経済史、科学史という構成である。
いずれも、国際高等研究所が主催する、高校生を対象としたIIAS塾の講義がベースとなっている。
本書は、講義内容に加えて、受講した高校生の質疑応答も盛り込んだ形になっており、高校生が知りたい内容に、より即しているという作りである。
通常の伝記では、天才的な科学者が約束された栄光の道を辿る成功物語といった話になりがちだが、本書では、まだ何者であるかを知らず、どこを目指すか手探りであった人々の足取りを追っている。取り上げられている科学者たちは、それぞれの分野の先駆者であり、敷かれたレールを走るのではなく、いわば自らレールを敷きながら先へ進んでいった人々である。
進路をこれから考える高校生たちのヒントや刺激となれば、という願いが根底にある。

章ごとに、異なる科学者を異なる筆者が紹介する。
・寺田寅彦(池内了)
・湯川秀樹(佐藤文隆)
・南方熊楠(松居竜五)
・田中久重(鈴木一義)
・小野蘭山(岩槻邦男)
・関孝和(上野健爾)

前半3人はかなり著名な人物だが、後半はなかなかニッチなところを突いている印象である。
物理学者であるとともに優れたエッセイでも知られる寺田寅彦。
日本人初のノーベル賞受賞者であり、戦後日本の科学を牽引する役割を果たした湯川秀樹。
「南方マンダラ」と称される独自の世界観を築いた奇才、南方熊楠。
このあたりももちろんおもしろいのだが、後半に意外に新鮮な視点があって興味深い。

田中久重(1799-1881)は東芝の創始者で、からくり儀右衛門としても知られた人物である。時計やからくり人形など、奇抜で優れた発明で人々を驚かせた。田中を中心に、こうした「職人」たちからどのように「エンジニア」が生み出されたのかを探っていく。
名もなきからくり師が作った文楽の人形の手がいかに優れていたか。すでにあるものに細かな工夫を重ね、優れたものを作り上げていく「ものづくり」の風土が以前から培われていたようである。

小野蘭山(1729-1810)はいわゆる「本草学」の学者であり、シーボルトは彼を「日本のリンネ」と称した。彼が京都で開いた私塾は江戸でも有名で、この塾では蘭山の人柄を慕ってか、畑違いの谷文晁や杉田玄白も学んだ。本草学は、もともとは中国から取り入れられたものだが、入ってきた書物を翻訳するだけでなく、日本固有の植物を観察・記録するようになっていく。『本草綱目啓蒙』は、李時珍の『本草綱目』に日本の植物の解説も加えた、蘭山本草学の集大成である。
後の牧野富太郎にもつながっていく、植物多様性研究の原点である。

関孝和(?-1708)は和算の大家。しかし生涯についてはほとんど何もわかっておらず、生年すらはっきりしていない。これは養子が不祥事を起こし、家が取り潰しになったことが大きく、関が遺した草稿や手紙などはほぼ廃棄されてしまったと考えらえる。
中国伝統数学(現在の中学校レベル)を学び、ここから今日の研究者レベルにまで発展させたという桁外れの人物である。
関以降、和算ブームが起こり、庶民レベルでも和算が親しまれるようになる(このあたりは別の本(『数の日本史』)にも詳しい)。明治期に西洋数学をスムーズに導入することができたのは、和算で素地ができていたことも大きいようだ。
ただ、特にパズル的に楽しまれていた和算は、体系的ではなかった。関は一般理論の大切さを説いていたが、それを引き継ぐものは残念ながらいなかったようだ。そのあたりが、和算が西洋数学にとってかわられた一因ではあったのだろう。

全体として、各章、執筆者のカラーが出ていて全体としての統一は今一つだが、時折、はっとするような気づきがある。
第一選択の教科書的な科学史書とは言いにくいが、副読本としてはおもしろいのではないか。ここから興味を持った科学者を深追いしていくのも楽しいかもしれない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 科学
感想投稿日 : 2021年5月10日
読了日 : 2021年5月10日
本棚登録日 : 2021年5月10日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする