「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本

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本棚登録 : 224
レビュー : 25
著者 :
ぽんきちさん 日本文学   読み終わった 

・・・とりあえずタイトルが長いw
なんじゃそりゃ?とキツネにつままれた思いで読み始めると、内容になんじゃそりゃ??と何匹ものキツネに取り囲まれてつままれまくるような本である。

タイトル通りといえばタイトル通りなのだが、明治の時代、なんだかとんでもない娯楽物語の世界があったのである。
江戸が終わり、維新の頃。日本純文学の黎明期でもあるわけだが、世の中インテリばかりではない。多くの庶民は「文学とはなんたるか」をまじめに考えたりはしない。要は、読み物はおもしろければよいわけで、江戸の娯楽の影響を残しつつも、荒唐無稽で珍奇なものがもてはやされる。書き手の方も文学に身を捧げる高尚な目的を持つ者ばかりではもちろんなく、売らんかな主義の者だって多い。そういうと聞こえは悪いけれども、ニーズにこたえて読者を楽しませて何が悪いと言われれば、ご説ごもっともでもある。
純文学の流れとは別に、そうした娯楽物語の潮流は連綿と続いていたのである。
著者はデジタルアーカイブを通じて、こうした作品群と巡り合う。
実は正統派純文学などよりよほど多く庶民に読まれていた物語。これらを通じて、明治の人々が何に心を躍らせてきたのか、そしてこうした作品が意外に現代の作品にもその面影を残しているのではないか、というのが、読んでいるうちにうっすらと見えてくる仕掛けである。

西洋文化がどっと入り込み、言文一致のうねりもあり、社会に大きな混沌と異様な活気があった時代。
貸本屋で扱われる読み物は、ある種、粗製乱造で荒っぽい。洗練され、練り上げられたものではないが、異様な迫力がある。時代の流行を摘み取って、いち早く物語の形に仕立て上げる、「ライブ」感を身上としていたのだろう。
紹介される物語には、今読むと面白いとは言えなそうなもの、というか、そもそも出版が無理なのではと思われるものも多い。
タイトルになっている物語は、星塔小史(せいとうしょうし)という経歴不明の作家による『蛮カラ奇旅行』(明治41年)である。バンカラ男がハイカラを目の敵にして、世界旅行をしながら出会ったハイカラ西洋人を殴り倒す、さらには悪いやつは殺してしまうという乱暴な筋である。こいつが旅行中に西洋人の狂女に殺されそうになる。何者かといえば、日本人の留学生に捨てられて狂ってしまい、彼に似た日本人を見ると殺そうとするのだという。まるっきり森鴎外の『舞姫』を思わせるような話である。憤慨したバンカラ男は、日本に帰ったらぜひともこの留学生を探してボコボコにぶんなぐってやる、と心に決める。その途上で、アフリカ人を連れ帰るのだが、この理由も、<蛮カラの本家本元なる>ものだから、という、現代ならいろいろと問題になりそうなところ。で、日本に戻って、件の留学生(=“太田豊太郎”)と偶然出会い、すっかりハイカラ紳士となっていた彼を殴って廃人にしてしまい、それをみた狂女は気が済んで病気が治る、さぁ読者の皆も、万歳三唱だ!というオチ。
・・・ここまで読んだ皆さんも今頃、キツネにつままれていることだろう。
しかしまぁ『舞姫』の豊太郎にムカついた読者は当時であっても結構いたのだろうし、そう思うと、時流をとらえた小史はそれなりに目端の利く人物だったのかもしれない。

本書中では実にさまざまな娯楽物語が紹介される。
現代の感覚でわっはっはと笑えるとか心の底から楽しめるかというと、ちょっと違うかなとは思うのだが、へぇ、こういうのが流行っていたのか、こんな無茶苦茶な話ありなの、とかいろいろ突っ込みつつ、正史に残らぬ庶民史に思いを馳せてみるのも一興である。
いや、実際、こういう自由度の高いところから、尖がった意外におもしろいものが生まれるものなのかもしれない。

レビュー投稿日
2019年10月4日
読了日
2019年10月4日
本棚登録日
2019年10月4日
6
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