まっぷたつの子爵 (ベスト版 文学のおくりもの)

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本棚登録 : 172
レビュー : 19
制作 : Italo Calvino  河島 英昭 
ぽんきちさん フィクション   読み終わった 

暴力が生む残虐さ。そしてその悲しさ。

イタリアの作家、イタロ・カルヴィーノによる『我々の祖先』と題される三部作の1作目である(2作目:『木のぼり男爵』、3作目:『不在の騎士』)。
詩情を湛えた不思議な世界で、寓話的とも幻想的ともいえるお話が繰り広げられる。
戦争に駆り出された子爵は、戦闘の果てに、大砲で体をまっぷたつにされる。
半分となった子爵の体には、悪い方の心しか残っていなかった。傷が癒え、故郷に戻った子爵は悪行の限りを尽くす。その恐怖の日々を、甥である「ぼく」が綴っていく。

悪をまき散らして歩く子爵だが、元はといえば戦争で体を半分にされたためである。その意味で、このお話の底には悲しさが流れている。彼もまた、非情な暴力の被害者でもあるのだ。
子爵の餌食となった小鳥、そしてその後の子爵の父の有様が悲しく、心に残る。
医者であるトレロニー博士、子爵に命じられて処刑台の製作に励む大工の親方。「ぼく」を取り巻く人々は、けして清廉潔白でも根っからの悪人でもない。
物語の背景はファンタジックだが、出てくる人々が生身の人間性を漂わせ、奇妙な現実感を生んでいる。

ある日、「ぼく」は子爵に命を救われる。村人たちの中にも、子爵の善行を目にするものが増え始める。子爵に何が起きたのか。意外な事実が徐々に明らかになり、そして物語はある着地点に向かう。

寓話性に満ちたストーリーは、読む人の人生観をいかようにも重ねられる懐の深さを持つ。子どもは子どもなりに、大人は大人なりに、楽しみ、あるいは恐れ、味わうことが出来る不思議な世界である。
誰しもが善き半分と悪しき半分で出来ていて、「責任と鬼火に満ちた世界」を渡っていく。
余韻のある終幕は、希望と絶望の両方を呼び覚ます。


*読み進めていくと、表紙と裏表紙の絵の意味がわかってくる。
土橋とし子の骨太でどっしりした絵が、このお話の寓話性を強調している。これはこれで深い味わいだが、繊細で写実的な挿絵がついても、また別の味わいがありそうだ。

*善と悪のシャープな二元論は、やはりキリスト教的な感じがする。日本的な発想からはちょっと生まれにくい気がするな。

*原題は”Il Visconte Dimezzato”、dimezzatoは「二分された」の意。パンチの効いた訳語がよい。

レビュー投稿日
2012年2月25日
読了日
2012年2月25日
本棚登録日
2011年12月18日
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