耳無芳一の話

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本棚登録 : 55
レビュー : 8
ぽんきちさん 文学   読み終わった 

小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の『怪談』収録の短編。
個人的には古今東西怖い話ベスト3の1つと思う。

赤間ヶ関(現在の下関市)に芳一という盲目の琵琶法師がいた。大層な名手で、阿弥陀寺の和尚はその才を愛した。芳一は、寺の客分として引き取られ、時折和尚に琵琶を語り聞かせて暮らしていた。
ある晩、和尚は法事で留守にしていた。芳一が庭先で涼んでいると、誰かの気配がした。「芳一!」と声は呼びつけるが、盲目の芳一には誰だかわからない。恐る恐る尋ねると、さる高貴な方の遣いの武士と名乗った。貴人は芳一の琵琶の評判を聞きつけ、ぜひとも平家物語の一節を語ってほしいというのだった。武士の鋼のような手につかまれ、芳一は貴人の逗留先に向かう。ひとしきり、壇ノ浦のくだりを聞かせると、殿様もおつきの女官たちも大層感激し、明晩も来るように、また殿様はお忍びの旅の途中であるからくれぐれも口外せぬようにという。
翌晩もこっそり寺を抜け出した芳一だが、運悪く和尚に留守が知れてしまう。頑として行き先を言わぬ芳一を不審に思った和尚が、翌日も抜け出した芳一の跡を下男につけさせてみると、芳一の向かった先は世にも怖ろしい場所であった。

漆黒の闇の中、鎧を付けた跫音が響く。「芳一、芳一」とこの世のものでない声が呼ぶ。
和尚が芳一に授けた守りには、重大な「穴」があった。芳一は辛くも魔の手を逃れるが、それには大きな代償が伴った。

八雲による『怪談』の再話が最も名高いが、原型となる話は各地に残るようである。
八雲は原話を流麗に語り上げ、日本ではあるが、どこか異国の香りもするような、怖ろしくも美しい話に仕上げている。
訳の戸川明三(秋骨)は、名の通り、明治3年生まれの英文学者、評論家、翻訳家。島崎藤村、徳富蘇峰、樋口一葉、斎藤緑雨、西田幾多郎など、多彩な人物との交友がある。本作の訳文は読みやすいが格調高い。漢籍の素養も相当だったようで、琵琶をかき鳴らす際の「錚錚嘎嘎」という形容など、生半可な知識では出てこぬところだろう。

レビュー投稿日
2019年1月12日
読了日
2019年1月12日
本棚登録日
2019年1月12日
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