半七捕物帳 01 お文の魂

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  • 2012年9月27日発売
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岡本綺堂(1872-1939)による時代小説連作の1作目。元祖・捕物帳である。
語り手の子供の頃の思い出話から始まる。「わたし」の叔父さんは江戸末期の生まれであり、幽霊話の類もよく耳にすることはあったが、苦々しく聞き捨てるのを常としていた。そんな叔父さんがたった1つ、「解らぬ一件」と漏らしたのが「お文の件」であった。子供の「わたし」はこれを忘れることができず、やはりこの件を知っているようである知り合いのKのおじさんのところに聞きに行く。最初は取り合わなかったKのおじさんだが、ある雨の降る陰気な夜、とうとう「わたし」にその話をしてくれることになる。

出だしはまるきり幽霊譚である。
元治元年(蛤御門の変があったころ)、ある旗本屋敷で、よそに嫁いだ妹が幼い娘を連れて舞い戻ってくる。嫁ぎ先にはもういられないから離縁してもらってくれというのだ。武士の家柄で、訳も分からずそんなことが許せるはずもない。主人である兄が、なだめすかし、また脅かしもして、ようよう聞き出したところによれば、その家に「お文」という女の幽霊が出るのだと言う。ぐっしょり濡れ、青い顔をした腰元風の女が枕元に座る。幼い娘もその女を目にしている。毎夜毎夜現れるその幽霊にすっかり参ってしまい、もう婚家には戻らないと妹は泣き崩れる。
初めはそんなことがあるものかと叱りつけていた兄だが、あまりに妹が恐れおののいているので、婚家に話に行かざるを得なくなる。妹の夫も不承不承、「お文」の幽霊が本当に出るのであれば、その素性は何か、調べることを承知する。
奉公人や口入先にあれこれ尋ねるが、かなり昔まで遡っても、「お文」という名の女が奉公していた形跡はなかった。
この件は、ごくわずかな者しか知らず、奉公人たちには口外せぬよう口止めしていたが、こうした話は広まりやすいもの、自然とあの家には幽霊が出るらしいと噂が立つようになった。
この噂を聞きつけたのが、近所に住むKのおじさんだった。旗本の次男坊で暇を持て余していたKのおじさんは、その家の主人に「お文」の正体を突き止めるように頼まれる。
Kのおじさんもあれこれ調べてみたが埒があかない。途方に暮れるKのおじさんの前に現れたのが、旧知の岡っ引、半七だった。

半七が出てくるまでがなかなか長く、中ほどまで来てようやく真打登場である。
そこからは畳みかけるように推理が進み、何箇所かを回るうちに、事件の紐がほどけていく。
本件は、単純な幽霊譚ではないのだった。黒幕にたどり着き、見事に悪いヤツに灸を据えた半七。その鮮やかな推理はさながらシャーロック・ホームズである。
ことは女房の名誉に関わりかねないことだった。真相はごくごくわずかな者だけが知り、「わたし」の叔父さんをはじめとする知人の間では、理屈では説明できない不思議な出来事として声を潜めて語られることになった。

本作は、Kのおじさんからのまた聞きだが、「わたし」はこの後、半七本人の知己を得、直接その捕物譚を聞くことになる。

推理ものとしては、偶然の要素もあり、非の打ちどころがないとまでは言えないが、するすると謎が解けていく展開は心地よい。
文章は、時代がかり過ぎたり大仰であったりというところがなく、端正で気品が感じられる。
明治の代から江戸を臨む、その時代を生きた人々の気配が感じられる時代小説である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代小説
感想投稿日 : 2019年2月15日
読了日 : 2019年2月15日
本棚登録日 : 2019年2月15日

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