もののあはれ (ケン・リュウ短篇傑作集2)

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本棚登録 : 362
レビュー : 38
制作 : 伊藤 彰剛  古沢 嘉通 
michさん SF   読み終わった 

ケン・リュウの短篇傑作集は「紙の動物園」と「もののあはれ」の全2巻計15篇を収録。どちらかというとファンタジー寄りな第1巻「紙の動物園」では、ヒューゴー賞/ネビュラ賞/世界幻想文学大賞の3冠(史上初!)に輝く表題作を収録。感傷的過ぎると思われる方もいるかもしれませんが、息子に対する母の愛はどうしても心を強く動かされるもので、何度読んでも泣いてしまう自信があります。
さて、「紙の動物園」を読んでいて強く感じたのは、作者がアジア人であるということ。つまり、欧米中心の世界におけるアジアの立ち位置や東洋文化といった「アジアらしさ」をうまく物語の中に取り込んだ作品が目立ちます。表題作もそういった作品のひとつですが、個人的に傑作のひとつだと思う「結縄」は、アジアの立ち位置と東洋文化の両面を題材に、欧米人にうまい具合に利用されるアジア人を皮肉に描ききった作品で、「文字占い師」もそういった虐げられるアジア人を強く感じる作品でした。だからでしょうか、「紙の動物園」を読み終えて感じたのは、「おもしろいのだけど、なんだか後ろ向きの作風だなぁ」というもの。しかし、そんな思いも、第2巻「もののあはれ」を読んで考え直すことに。

「もののあはれ」は、「紙の動物園」とは異なり、SF作品で構成されます。ヒューゴー賞受賞の表題作は、東洋版「たったひとつの冴えたやりかた」といってもいいかと。しかし、そこで描かれるヒーロー像は西洋のそれとは少し異なるもの。西洋と東洋をしっかり対比させて描かれるのです。「たったひとつの冴えたやりかた」の主人公コーティーは、まさに彼女個人がヒーローであるといっても過言ではないでしょう。しかし、本作の主人公である大翔は(作品中でもはっきりと明言されるとおり)ヒーローではありません。西洋と東洋のヒーロー像の違いを作品中ではチェスと碁を用いて表現していますが、「個々の石はヒーローではないけれど、ひとつにつどった石はヒーローにふさわしい」、これが本作で描かれるヒーロー像です。「紙の動物園」では自虐的ですらあったアジアらしさがここにきて素晴らしい魅力として表現されているのでした。
本書では表題作に加え、不老不死を題材にした姉妹作「円弧」と「波」やテッド・チャンの「地獄とは神の不在なり」から着想を得た「1ビットのエラー」など、SF作品としても読み応えのある作品が続きます。そして、2巻通じて最も好きな作品となった「良い狩りを」をラストに迎える構成で、とにかくこの短篇集「もののあはれ」はとても満足できた1冊でした。
1冊にまとめた方が良かったのでは…?という愚問はさて置き、ケン・リュウの今後の作品にも期待がもてる全2巻でした。

レビュー投稿日
2017年6月25日
読了日
2017年6月25日
本棚登録日
2017年6月25日
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