イギリスの歴史家M・I・フィンリーの著書"THE WORLD OF ODYSSEUS(第2改訂版、1997年)"の全訳。ホメロスの二大叙事詩『イリアス』、『オデュッセイア』の記述から、伝承学や文化人類学の知見も加えた上で古代ギリシャ(具体的には暗黒時代初期である紀元前10~9世紀のギリシャ)の社会を考察した書。
個人的に興味深かったのは第五章「道徳と価値」の項であり、神々の「人間化」や神々の道徳性について論じた個所であった。即ち、神々はホメロスに続く伝統の中で人間的な存在となり、また本来道徳とは無縁の存在であったという主張である。以前からギリシャ神話における神々と道徳の問題(神々による人間への「専横」とも取れる振る舞いなど)に関して興味を持っていた自分としては、一つの答えを見つけられた感覚があった。
本書の内容は『イリアス』、『オデュッセイア』を元にしているため、先にこの二つの叙事詩に目を通しておくと理解しやすい。また、本書で取り上げられている説(「家」中心の政治経済体制、賓客関係に基づく外交)には現在では疑義の呈されているものがあるため、本書を読んで古代ギリシャに興味を持った方は最新の研究成果を取り入れた解説書・専門書を読んだほうが望ましい。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
ギリシャ神話
- 感想投稿日 : 2012年8月22日
- 読了日 : 2012年8月16日
- 本棚登録日 : 2012年7月10日
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