1929年。ラヴクラフトはロングに、ある小説の原案を提供しました。それは、自身がかつて見た夢の内容の作品化を試みたもののお蔵入りになっていたものでした。ロングはこれを元に『恐怖の山』を著します。
一方、ラヴクラフトが作品として昇華することができなかった未完の作品は彼の死後、『古の民』という題で公開されるのでした。
今の作家さんも、作品として昇華できなかったネタの提供をし合うようなやりとりをしているんでしょうかね。
11集はその『恐怖の山』を始め、次元をさまようものイオドが登場する『狩りたてるもの』など7編を収録。全体的におぞましい、エグいと思えるものが揃っています。
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『深淵の恐怖』(ロウンデズ/1941)
あの日、わたしたちはノードゥンの死体を事故に見せかけて始末した。しかし気がつけば、そのことを覚えているのはわたしだけで、そしてそのきっかけとなる事件を起こした人物は姿を消していた――。
(既存の用語やアイテムを盛り込みつつ、メインにはオリジナルのクリーチャーやアイテムを活用した意欲作。周囲から見る分には正常ながら、当事者から語られる異常な事態を、催眠術による暗示という要素で表現したのが独創的で面白い。)
『知識を守るもの』(シーライト/1992)
ウイットニイ博士は、子供の頃から知識の獲得に貪欲だった。全てを知ろうとオカルトの範疇にまで入り込み、ついにはエルトダウンの粘土板に記されている「知識を守るもの」の召喚を試みるのだったが――。
(好奇心や探究心で自滅する当事者というのはクトゥルフ神話においては半ば定番だが、人間の逃れ得ぬ業ゆえに定番なのだろう。)
『暗黒の口づけ』(カットナー&ブロック/1937)
ディーンは祖先が建てた古びた屋敷を相続して住み始めた日から、海に関わる夢を見るようになる。その展開は、当初はありふれた内容だったが、やがておぞましいものへと変わっていく。医者に診てもらって帰ってくると、「すぐにその家から離れるべし」という旨の電報が――。
(登場するクリーチャーは深きものを彷彿させるが細部の描写から別物であるとわかる。表題の意味が解る描写は生理的不快感で鳥肌モノ。)
『穿に潜むもの』(ブロック/1937)
身代金目的でギャングに誘拐されたわたし。監禁された地下室は、かつて死体泥棒の罪で裁判にかけられた魔術師が住んでいた廃屋敷の地下にある部屋だった。わたしが、相手が眠りこけたすきを見て逃げ出そうとした時、奥にある鉄扉が軋み開く音がして――。
(悪党の隠れ家と言えば人目を避けられるような場所が定番だが、怪物に襲われる場所の定番でもある。)
『狩りたてるもの』(カットナー/1939)
遺産の奪取を目論むドイルは、先の相続人であるいとこのベンスンを殺害しようと彼の元を訪れる。古の存在を召喚しようとしていたベンソンを首尾よく殺したドイルだったが、帰る途中でひどい眠気に襲われて――。
(ニョグタに次ぐカットナーオリジナルの神格、イオドが登場する話。かなり悪夢めいていてエグい内容。)
『蛙』(カットナー/1939)
陰惨な魔女伝説が残る屋敷を借りたノーマンは、庭の景観を壊しているという理由で、魔女が封印されているとされる碑を庭から除いてしまう。その晩、庭に目を向けたノーマンが眼にしたのは――。
(妖術師ものだが、結末に至る展開が現代アメリカっぽい。)
『恐怖の山』(ロング/1951)
中央アジアからマンハッタン美術館に運ばれてきた象頭神の石像。送ってきた担当者は経緯を報告した直後に変死し、翌日には警備員のおぞましい変死体が発見される。学芸員のアルジャナンはオカルティストのロジャーに助けを求めるが、今度は石像が美術館から消え、マンハッタンで被害者が続出する。はたして、アルジャナンとロジャーは凶行を止められるのか――。
(マンハッタンを舞台に吸血生物が暴れまわり、架空の科学兵器が登場する展開が90分くらいのB級映画っぽい。ホラーと言うよりSFだが、パルプ・フィクションとしては王道なのだろう。)
- 感想投稿日 : 2021年7月24日
- 読了日 : 2021年7月24日
- 本棚登録日 : 2021年7月24日
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