唐招提寺への道 (新潮選書)

  • 新潮社 (1975年1月1日発売)
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感想 : 6
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かなり時間をかけてしまった。唐招提寺に訪問して魅了されたのが2022年6月だから、買ってから2年もかかってしまった。よくない。
とても面白い。
まず鑑真和上や唐招提寺について、そして奈良の街や、大和路(室生や桜井、飛鳥や吉野)についての描写と内省、唐招提寺の障壁画を描くことになって、それから障壁画のイメージをつかむために日本全国の海と山をめぐる。そしてそれらをもとに障壁画を描いていく。ざっくりいうと以上だが、それにしても東山氏の文化の・見識の深さ。和歌や仏像、古典、文学、寺社仏閣建築それらについてここまでポンポンと出る人がどれだけいるか。
芸術は深いところで、美という観点で、心を動かすという観点で、見えないくらいまでに深いところでつながっているのであって、違う畑だから、みたいに、おれみたいに知識の浅いやつがどれだけいるか。戒めになる。
筆者は1909年生まれであり、芸大のエリートとしてベルリンに留学するも、戦争や困窮などで日の目を浴びるのには戦後のことだった。
それは苦難のみちだったが、そこまでに見たもの、高山の光景などは、氏の「日本の美しさ」に対する眼を深めるものだった。
自然描写にからめて引用される万葉集の歌。それらが思い出される景色と、その変わらないものをうまくつかんだ歌。その見事さをつなげる東山氏。
まだまだ文化のかみ砕きがおれには足りない。
文中にもあった、「遍歴と帰郷の揺れ動き、外と内に向かった二つの振り子」が東山氏の芸術の基礎構造になっている、というこの遍歴の様子は、非常にマネしたくなる。そして氏はその振り子のような動きを、自然に、宿命というような、それを「道」と言っている。
そして障壁画の制作過程において、いかに準備に時間をかけるか。焦らずに、けっして遠回りではなく、じっとこらえながら、丁寧に準備を重ねていくのである。

実際の障壁画をぜひとも見てみたいものだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2024年7月31日
読了日 : 2024年7月31日
本棚登録日 : 2024年7月31日

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