もっと知りたいイサム・ノグチ 生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

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  • 東京美術 (2021年4月30日発売)
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感想 : 8
5

イサム・ノグチというと、オシャレな照明や家具をデザインした人、みたいなぼんやりしたイメージしか持っていなかった。いやいや、すごく興味深い人だった。
父は詩人の野口米次郎、母は作家のレオニー・ギルモア。それさえ初めて知った。そして、イサムは彫刻家ブランクーシの弟子。

イサム・ノグチの作品に対する全体的な印象は「かわいい」だ。どこかホアン・ミロの描く形態にも通じるものがある。また、彼の生み出す彫刻やオブジェは、なんとなくミジンコとかミカヅキモとかゾウリムシとかの「微生物」を連想させる。
個人的なお気に入りは、アリゾナの収容所での体験を反映しているとも書かれている「私のアリゾナ」。すごく抽象的なのに、ずっと見ていても飽きない謎を秘めている。赤紫っぽいファイバーグラスの落とす影がすばらしいアクセントになっている。

それから、「チェイス・マンハッタン銀行プラザのための沈床園」。ウォール街の経済中心地なのに、ぽっかりと「無」の口が開いていて、まるでブラックホールの特異点みたいに、いわゆる「色(しき)」を吸い込んでいる。それをスーツを着た人たちがその枯山水を覗き込んでいる写真が最高だ。

本書ではイサム・ノグチのことを「野人」とか、アポロンに対して「ディオニソス的」とか形容されていたが、私は「古代人」という言葉を思い浮かべていた。

きっとこういう人が例えばストーン・ヘンジのようなものを構想したんだろうなと思う。晩年にむかうにつれイサムは石に関心を向かわせ、妙な古墳みたいなものを作ったりもしている。そしてそれとひと連なりになっているのが、子どもたちの使う遊具だ。そうそう、彼の作品は見ていても、すごく触ったり上に乗ったりしてみたくなるのだ。

惜しむらくは、「原爆慰霊碑」だ。当初はイサム・ノグチに任された仕事だったが、却下され、現在の丹下健三設計の慰霊碑として広島にある。
が、ノグチ案のほうが断然良い。これもまた丸みを帯びていてある意味かわいくもあるのだが、ただスケールが巨大で、地下からそそり立つようにある。まるで宇宙人の下半身のようにも見える。今まさに伸び上がらんとするキノコ雲のようにも見える。それは原子力のもつ手に負えないエネルギーを表象しているようでもあり、本書にも書かれていたが、「死者たちの怨念、怒り」と見てもよい。ついでに言えば、土偶にも似ている。
この心ざわつかせる案が採用されなかったことがひたすら残念でならない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 美術・デザイン
感想投稿日 : 2022年4月19日
読了日 : 2022年4月19日
本棚登録日 : 2022年4月19日

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