スペードの3

著者 :
  • 講談社 (2014年3月14日発売)
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感想 : 296
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羨ましい存在が隣にいたら、どうするか。

表題作「スペードの3」タイトルが印象的。大富豪のスペ3ルールは、あるときとないときがあったけど、これを後生大事に握りしめておくのが最善の作戦でないことは、大富豪を何度かすればなんとなくわかっていた。革命なんて待っていてもおきないのだから。

宝塚を模した劇団、そしてそのOG女優と、ファンクラブ。その不思議に規律のとれた様子は、確かに「学級」かもしれない。そして「学級委員長」がいる。なんとなく腑に落ちた。学級委員長は名誉職だ。何の利益もないけど、クラスをコントロールしている。でも、あれほど脆い権力もない。本当に信頼されてリーダーになっているのならともかく。ただのまとめ役でしかないのだから、他に優れた人が来れば、すぐにとって代わられる地位なのだ。

革命を起こしたのが、第二章の主人公であるむつ美。彼女は自分で革命を起こそうとした。その強さは「ハートの2」である。

最後のつかさの話も印象的。これひとつで一冊書けそうな気もする。とはいえ、美知代とむつ美の章があってこそ、そこで語られていた「つかさの物語」との違いに、引き込まれるのだろう。

人々を納得させる物語を背負った人を、わたしたちは応援したくなるし、騒ぎたくなる。悲しい物語を持った人の悲しみは、よく伝わる。でも、喜びも、怒りも、背負った説得力以外のものも伝えられるとしたら、それはその人の努力の成果であり、羨むものではなくなってしまう。そんな存在が、隣にいたら。でも、つかさは円を嫌えない。円がそんな見せかけの物語だけじゃなくて、本物だと知っているから、何も知らない人たちと同様になって、本当は本物である円を嫌う自分はみっともないから。

最後につかさは自分の物語がないことに開き直るけれど、それはつまり自分のカードで勝負するということ。タイトルの「ダイヤのエース」は、まさに、最強には少し足りないつかさみたい。

美知代は小さくても革命を起こそうとする。むつみは革命を起こした。つかさは革命を起こさないことを選ぶ。わたしは三人の決断をそのようにとらえた。つかさのはある意味革命かもしれないけれど、ひっくり返さず戦いを続けるのだろう。むつみは革命に成功したけど、いつ革命返しが起きるかわからない。美知代の革命はどうなるかわからない。三つの短編は時間軸がずれていて、その後が描かれていないから。

でも、戦いを降りるという選択肢がないことに、ちょっと厳しいものを感じた。朝井リョウは、どうしても序列から逃げられない自分というメッセージを伝えたい作家なのかな、と思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 913: 小説. 物語
感想投稿日 : 2014年11月11日
読了日 : 2014年11月10日
本棚登録日 : 2014年11月11日

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