映画道楽 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2012年11月22日発売)
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本棚登録 : 198
感想 : 18
5

下駄で歩いていて、あけすけな物言いをするこのおじさんが好きです。

映画作りに携わって、鈴木さんがあれこれやりながら思ったこと、監督とのエピソード、いろいろ綴られている。言わば参謀の鈴木さんがいなかったら、今のジブリはない。あの素晴らしい映画の数々にも触れることはなかった、と思うとぞっとする。

映画論とはちょっと別の話だったけれど、「行動してから考える」いうのが気になった。身体が小さくなって頭が大きくなってきた、という話だと思うのだけれど、養老氏を思い出した。あとは、コピーの話。しがない言葉屋の身としては参考になることが多々あった。糸井さんもやっぱりすごいし。

道楽という言葉が好きだ。ただ好きだからやっている。嫌で追い立てられて仕方なくやるのではなくて、好きで「やらずにはいられない」という感覚。「労働は喜び」という観念があまりにも少ない中で、この言葉のまとう空気に私の心は安堵する。道楽を馬鹿にする人は多いけれど、それは確かな豊かさをもたらす。「幸せ」の感覚だ。
鈴木さんはあとがきでこう云っている。

お金儲けに長けた人がもてはやされる時代だ。そんな時代と格闘し、そんな風潮を笑い飛ばしたい。コンテンツなんて言葉は、くそ食らえだ。映画は、楽しいから観るし、歓びを得るために作るのだ。

私は時代と格闘することにエネルギーなんて使わないけれど、世の中に溢れているそういう意識や雰囲気を笑い飛ばしたいな、とは思う。そのことに関して、今はまだ半人前の意識がある。そして、「道楽」にはその力があると思う。今やすっかり、映画を作ったり、映画に出たりするのが仕事として成り立つ時代になった。そしてそれを享受する私がいる。でも所詮それだって、凡そすべてが単なる道楽なのだ。

(20130726)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エッセイ・随筆
感想投稿日 : 2013年7月26日
読了日 : 2013年7月26日
本棚登録日 : 2012年12月2日

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