ただただ続く不幸や不条理の連続に、まるで延々と暗がりの部屋で読んでいたような感覚に陥ってしまいました。
オーウェルの『1984年』や、映画『コンテイジョン』『復活の日』などのディストピア系の作品が近頃流行り始めているのは、迫りくる現実を客観的に見て、
どうすることが「正しいこと」なのかを考えるために読んでる人がいるのかもしれません。
この物語は、
『四月十六日の朝、医師ベルナール・リウーは、診療室から出かけようとして、階段口のまんなかで一匹の死んだ鼠につまずいた。』
という、当たり前の日常の、少しの違和感から始まります。
ただの1匹の鼠の死骸が、日に日に夥しい数になり、やがて、人間にも感染していくようになりました。
感染者は増え、街を封鎖しましたが、本当の恐怖はこの、封鎖した中で広がっていくこととなります。
まるで未来予知のごとく、今起こっている現実にものすごく近くて、ページをめくるのが怖くなりました。
きっと、フィクションであれば、すぐ読めたのですが、そうもいってはいられない現状で、何度も読むことをやめて、また読むことを繰り返し続けました。
作者は1人であるにもかかわらず、物語の中では、さまざまな考えを持つ人がいます。
何となく自分はこの人に近いかもしれない、と思うこともあるかもしれません。
設定上では、この物語を書いているのは、登場人物の中の1人です。それは誰かは書きませんが、想像を膨らませながら読むのも一つの楽しみ(?)だと思います。
物語の最後をどう捉えるか。僕は、物語終盤でリウーの感じたことが、まさに的確な意見に思えました。
向かい風が吹き荒れる現実に、立ち向かうにはどうするべきか。まだ風が弱いうちに、少し考えてみるのもよいのかもしれません。
- 感想投稿日 : 2020年4月16日
- 読了日 : 2020年4月16日
- 本棚登録日 : 2020年4月16日
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