巻末の解説を見て、著者が実際に刑務所の医官をしていた事を知る。つまり、この小説は極めて事実に近い創作である。死刑を確定されながら、それを執行されない確定囚。未来も希望もないような気がするし、実際に拘禁による精神病に罹患する。しかし、この小説は、そうした我々の単純な想像を超えたリアルを伝えてくれる。
生きた心地がしない。食欲が出ない。確定している絶望を待つ時間…。例えば、会社に大損失を出しそれを報告しなければならない時。例えば、愛する家族の不幸を知りながら、目にするまでの時間。日常に存在する、確定囚のような状況。我々のリアル。死刑囚は強く、しかし、確定された事実には抗えない。あるいは、選択肢の無さが、強さを生むのか。いや、正確には、強さを測るという表現が正しいだろうか。ここでの弱さとは、絶望の想像に押し潰されることか。思考がまとまらないが、そんな思考のきっかけをくれた。
もっとも、殺人犯とは、常人が想像し得るが、恐怖や理性あるいは打算により成しえない行為をした人達だ。こういう輩に対し、強い弱いという表現は不適切だろう。恐怖を克服したか、あるいは理性を喪失したか、想像力が足りなかったかという殺人犯は、自らが死刑に処される際にも、理性、想像力、恐怖が欠落する、という事もあるのだろう。
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- 感想投稿日 : 2016年2月6日
- 読了日 : 2016年2月6日
- 本棚登録日 : 2016年2月6日
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