西原理恵子月乃光司のおサケについてのまじめな話 アルコール依存症という病気

著者 :
  • 小学館 (2010年7月1日発売)
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アルコール依存症の人の、家族が読むのになにかいい本ありませんかとお尋ねをうけて、私で思いつく本をあげてみたほかに、元同僚さんに聞いてみたら、このサイバラ本をおしえてもらった。読んだことがなかったので、図書館で借りてくる。

サイバラの元夫のカモちゃんが、アルコール依存症を患っていたことは、うっすら知っていた(映画「毎日かあさん」でも、カモちゃん役の永瀬がずいぶん暴れていた)。サイバラの他の本にも、そんなカモちゃんのことが、時々出てきていた。

カモちゃんは、アルコール依存症という病気から生還したのだが、もう一つの病気・ガンもあって、半年の陽だまりのような思い出をのこして、亡くなった。42歳で。いま自分がもう42を過ぎたこともあって、若い、若すぎると思う。

幸か不幸か、サイバラ自身が稼いで生活できていたので、カモちゃん放り出すまで、6年間もガマンしてしまった、そのことを一番後悔しているとサイバラは書く。皮肉なことに、ガマンしてガマンし続けたサイバラが離婚を決意したことで、カモちゃんは心底から「お酒をやめる」と言い出した。

▼専門用語では、「底つき」と「気づき」というのですが、これ以上最低最悪の自分はない、というふうに底をつき、「お酒はやめなきゃ」と本人に気づかせることが、アルコール依存症の治療の第一歩だそうです。…自分で決めて、自分の後始末は自分でするしかないということに本人が気づくまで、周囲は放っておいてやらないといけないんです。(p.22)

でも、そのときに、依存症についての知識や理解のない医者にかかってしまうと、とんちんかんなことを言われかねない。「本人にとってはいのちに関わる病気なのに、怠け者だ、意志が弱い、などと攻撃されるケースが多い」(p.23)。

必要なのは、社会的制裁にさらすことではなく、専門の病院へ連れて行くこと。
そして、家族は、本人を放り出さないといけない。世話を焼いて、結局は飲み続けられる環境をつくることになっていたりする。
本人が「底つき」と「気づき」を迎えるまで放っておく間に、家族だけでも専門の医者に話を聞きにいくことが有効で、その後の道しるべにもなる。

▼この病気は、つまりは家族が割に合わない病気なんです。だれかに相談するにしても、家族の悪口を第三者に話すことになってしまう。家の中のことだから、だれに助けを求めていいかわからない。家族の悪口を言って、一体それが何になるんだろうってことですよね。(p.20)

サイバラ自身も、あまりにひどかったカモちゃんの症状のために、もともとカモちゃんがどんな人だったか忘れていたという。酒を飲んで、暴れて、卑怯なことばかりする姿ばかりおぼえていて、病気になる前のカモちゃんがどんなだったか忘れていた。アルコールを断って帰ってきたカモちゃんを見て、働き者で元気で明るい、子ども思いで家族が大好きなカモちゃんを、やっと思いだすことができたのだと。

当事者、家族など周りの人間、どちらにも「気づき」があって、関係は修復されうる。

サイバラの話のあとには、依存症当事者だった月乃さんの過去・現在・未来の話がある。そのあとの二人の対談の最後の言葉に、それぞれの思いが集約されていると思う。

▼西原─しかしこの病気は、みんなに嫌われる病気だからね。嘘ばかりついて大暴れして、多くの人にさんざん迷惑をかけて。それが病気の症状だから許せと言われても、なかなか納得できません。本当に人じゃないんですよ。本人の心根や性格には関係なく、こんなに悪質なことができるのかっていうようなことをするんだから…。旦那を治すよりも旦那を替えたほうが早いかもしれない。
 でも、エイズもうつ病も、病気の理解が広まって、その地位が上がったんだから、この病気の身分も上げなければね。そうすることで、家族の中に憎しみが生まれないようにしてほしいというのが切なる願いです。
 月乃─今の世の中で生きづらさを感じている方が、お酒以外の気晴らしの方法や人生の楽しみに巡りあえて、一人でも多く幸せになってくれればうれしいです。(p.91)

この次は、カモちゃん自身の本『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』を読んでみるつもり。

(8/9了)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 図書館で借りた
感想投稿日 : 2012年8月11日
読了日 : 2012年8月9日
本棚登録日 : 2012年8月9日

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