時代閉塞の現状 食うべき詩 他十篇 (岩波文庫)

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レビュー : 9
著者 :
ravenclaw55さん 本 :小説   読み終わった 

 札幌は、寔(まこと)に美しき北の都なり。初めて見たる我が喜びは何にか例へむ。アカシヤの並木を騒がせ、ポプラの葉を裏返して吹く風の冷たさ。札幌は秋風の国なり、木立の市(まち)なり。おほらかに静かにして人の香よりは樹の香こそ勝りたれ。大なる田舎町なり、しめやかなる恋の多くありさうなる郷なり、詩人の住むべき都会なり。
(秋風記)

詩人にこう歌われるとは、札幌はうらやましい街です。

生きることに真剣だった人物の文章を読んでみようと思い、石川啄木を読んでみました。
いくつかは前に読んだ「ちくま日本文学全集」とダブりますが、再読。

「食(くら)うべき詩」はその一つ。

詩というものについて、私は随分、長い間迷うて来た。

で始まる文章は、そもそも詩人とは何ぞ、という自問に対し、こう答えています。

詩人たる資格は三つある。詩人はまず第一に「人」でなければならぬ。第二に「人」でなければならぬ。第三に「人」でなければならぬ。そうして実に普通人の有(も)っている凡ての物を有っているところの「人」でなければならぬ。
…一括すれば、今までの詩人のように直接詩と関係のない事物に対しては、興味も熱心も希望も有っていない-飢えたる犬の食を求むる如くに唯々詩を求め探している詩人は極力排斥すべきである。意志薄弱なる空想家、自己および自己の生活を厳粛なる理性の判断から回避している卑怯者、劣敗者の心を筆にし口にして僅かに慰めている臆病者、暇ある時に玩具を弄ぶような心をもって詩を書きかつ読むいわゆる愛詩家、および自己の神経組織の不健全な事を心に誇る偽患者、ないしはそれらの模倣者等、すべて詩のために詩を書く種類の詩人は極力排斥すべきである。無論詩を書くという事は何人にあっても「天職」であるべき理由がない。「我は詩人なり」という不必要な自覚が、いかに従来の詩を堕落せしめたか。
…即ち真の詩人とは、自己を改善し、自己の哲学を実行せんとするに政治家の如き勇気を有し、自己の生活を統一するに実業家の如き熱心を有し、そうして常に科学者の如き明敏なる判断と野蛮人の如き率直なる態度をもって、自己の心に起り来る時々刻々の変化を、飾らず偽らず、極めて平気に正直に記載し報告するところの人でなければならぬ。

 詩はいわゆる詩であってはいけない。人間の感情生活(もっと適当な言葉もあろうと思うが)の変化の厳密なる報告、正直なる日記でなければならぬ。従って断片的でなければならぬ。-まとまりがあってはならぬ。(まとまりのある詩即ち文芸上の哲学は、演繹的には小説となり、帰納的には戯曲となる。詩とそれらとの関係は、日々の帳尻と月末もしくは年末決算との関係である。)そうして詩人は、決して牧師が説教の材料を集め、淫売婦が或種の男を捜すが如くに、なんらの成心を有っていてはいけない。

ここで啄木について論じたり、詩や詩人について考えたりしたいわけではありません。
そもそもそういうものには興味はないし。
せっかく読んだんだから、印象に残った部分を書き抜いておこうと。
こうした立派な文章を書き写すのは、なんとなく面白いものです。
あとでその部分を読み返してみるのも、結構面白い。

 何と言っても、一番なつかしい人は島崎藤村氏である。
 四囲の事物につれて自分の心も騒ぎ立っている時、その騒ぎ立っている心の片隅に空虚を感じる時、私は誰よりも島崎氏に逢いたい。しかし私はまだ一度しか、このなつかしい人の家に入って見た事がない。…が島崎氏に逢いたいと思うだけでも、私にはなんらかの慰謝である場合が多い。
(巻煙草)

 いつしか私は、十七八の頃にはそれと聞くだけでも懐かしかった、詩人文学者になろうとしている、自分よりも年の若い人達に対して、すっかり同情を失って了った。会って見てその人の為人(ひととなり)を知り、その人の文学的素質について考える前に、まず憐愍と軽侮と、時として嫌悪を注がねばならぬようになった。殊に、地方にいて何の為事も無くぶらぶらしていながら詩を作ったり歌を作ったりして、各自他人からはとても想像もつかぬような自矜を持っている、そして煮え切らぬ謎のような手紙を書く人達の事を考えると、大きな穴を掘って、一緒に埋めて了ったら、どんなにこの世の中が薩張(さっぱり)するだろうとまで思う事があるようになった。
(硝子窓)

この文庫、ずっと昔に買ったもので、他の文庫本も読んでみようと思って探したんですが、本屋にはどうやら出てないんですね。
ジュンク堂と紀伊国屋と丸善になかったから、たぶんないんでしょう。

いま読めるのは「ちくま日本文学全集」の一冊だけのようです。
もちろん詩のコーナーには啄木の詩集はありましたけど。
啄木の散文は最近あまりはやらないのかもしれない。

ただし、ローマ字日記。かなり過激そうで、これは読んでみたい。

文庫本の最後は、大逆事件の幸徳秋水が無政府主義について自ら解説した文を含む、A LETTER FROM PRISON。
バクーニン、クロポトキンも読んでみよう(そのうち)。

レビュー投稿日
2017年11月3日
読了日
2005年1月25日
本棚登録日
2017年11月3日
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