
百年文庫94
冬で雪なので白銀の「銀」だなぁ…ということで、今年初の百年文庫を読んでみた。金に対しての銀。太陽に対しての月とも似ている存在感。金閣寺よりも銀閣寺がいいし、金貨よりも銀貨に憧れた子供時代。なぜか3編とも海が関係していて、とても面白かった。
堀田善衞 「鶴のいた庭」 星5
船がまだ〈和船〉だった頃のお話。帆しかなく着岸は人力と風任せ。望楼に上がり遠眼鏡で帆についている標識を見定めて、船の帰還を声高らかに発すると、死んでいた町が活気づき、船乗りの男たちのために町が、女が動き出す。読んでいてすごく活気を感じた。敵意を持った冬の日本海。その荒波を越えて男たちが帰ってくる。海の恵みは陸や人々に幸をもたらす。
時代が変わり、〈和船〉から〈だるま船〉になり、運ぶものも米、昆布から、石炭、セメントに変わり、時が移りかわっていく。大正時代のお話でしたが、色々なことを知ることが出来て興味深かった。
廻船問屋の建物の構造の説明を読んでいて、つい龍馬伝を思い出してしまいました。
小山いと子 「石段」 星5
楽しみにしていた旅なのに、変な男と宿が一緒になってしまい、旅が台無しに…。下品で卑しい男には二人の子供が一緒で、妻らしき女の姿は見当たらない。
私がせっかく海の魚たちとの饗宴を独り占めして楽しんでいたのに、いきなり梨の食い残しが飛んできて、すべてを台無しにされてしまった。厚顔無恥な男には、品のよい顔立ちをした子(姉弟)がいて、父の振る舞いを恥じて小さくなっている…。そんな旅の終わりごろに男がとった行動に、なぜか心を奪われそうになってしまいそうになるのは、情なのか恋なのか…。
文章が美しくてすらすら読めた。女心が手に取るようにわかり共感した。あと浅瀬の描写がものすごくきれい。面白かった。
川崎長太郎 「兄の立場」 星3
震災の直後で小田原は焼けトタンの原っぱになってしまい、箱根の旅館も全部だめになってしまい、温泉宿に魚を卸して生活をしていた一家の暮らしはめちゃくちゃになってしまった。母は癇癪を起こし、父は弟をぶん殴り、弟は背骨をふるわせて泣き伏す。これだけでもどん底なところに「役立たずの長男」というレッテルが貼られてと取り付く島もない。ほとんど生い立ちに近いんだろうなぁ…と検索しながら読みました。いまいち入り込めなかった。
「海」や「鶴」が共通していて驚いてしまった。
百年文庫は文字も大きいし読みやすい。シンプルでセンスがいいなぁ…とページをめくるたびにそう感じる。次は『灰』を読むよ。
- レビュー投稿日
- 2019年1月6日
- 読了日
- 2019年1月6日
- 本棚登録日
- 2018年12月27日