壊れものとしての人間 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)

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レビュー : 4
著者 :
まりかさん  未設定  いま読んでる 

引用 頁八〜十三

「他人を暴力で陵辱したことも、戦場に出たこともなかった。それでいて読書による経験のうちに、右にあげたすべてのことより以上のものがふくまれていると感じる。またぼくは現実にむかってゆく自分の相続力の根源に、読書によってきたえられた想像力が、決してもろくもぐにゃぐにゃでもない確かな実態として存在していることを感じないわけにはゆかない。しかもなお、読書による経験は、読書による経験にすぎない、読書のうちに自分の生命を高揚させる想像力は、現実を認識し行動をおこす者の想像力とは別の根をもっている、という意識もまた、すっかりふりすててしまうことはできない。」
「幼年時に、それは戦いのさなかのことだ、ぼくの固定観念のひとつは、まずしい数の書物の小さな積み重なりの上に毛細血管をはびこらせて生きていた。そしてそれがぼくの挙措動作を不自然にし、ぼくの身のまわりの事物、人間との適応を難しくさせ、ぼくは吃った。」
「ぼくはじつにたびたび、次のように考えては、現実についてのとある情報、または現実そのものの前で、ためらいとともに立ちどまってしまったのである。これは現実でない、なぜならこうしたことが書物にのっているのを読んだことがあるからだ。(中略)まことに幼年時のぼくにとって、書物のうちなる事物、人間はみな架空のものだったのだ。」
/「父親の不意の死が、もっとも鋭く、書物のうちなる世界と、現実生活とのあいだの連絡路をたちきる役割をはたした。父親の死は、ぼくが活字で読んだかぎりの、いかなる死とも似かよっていないからである。」
「ぼくはそこでも、死という言葉がそれぞれの口から発せられはするがひとつにとけあうことはなく、むなしくすれちがって消えさる気配をかぎつけた。」
/「身のまわりの事物よりも、書物のなかの事物が、より重く現実的に実在する瞬間を、ぼくはくりかえし経験することになったのである。森と谷間とが架空になり、書物のなかにのみ、まぎれもない現実が、ぐっと頭をもたげて、ぼくを領有する瞬間。」

レビュー投稿日
2018年1月31日
本棚登録日
2018年1月31日
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