岩波文庫的 月の満ち欠け

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本棚登録 : 550
レビュー : 44
著者 :
lateshowさん  未設定  読み終わった 

愛しい、怖い、切ない。読む人によって見え方が全く変わってしまうであろう不思議な作品。また一人、好きな作家さんが増えてうれしいです。

2017年に直木賞を受賞したそうですが、私は全く前知識なく、本屋さんで山積みにされたこの本に出合って気まぐれに購入しました。冒頭のミステリーチックな雰囲気からその頭で読み進めていましたが、見る角度によっては恋愛小説になったり、ちょっとオカルトやホラー的な要素もあったり、きっと次に読むときには違った表情を見せてくれるのではないかなあと。

東京のとあるホテルのラウンジで、初老の男と若い母娘が待ち合わせ。もう一人来るはずの男、三角(みすみ)はまだ来ていない。三人はぎこちなく話し始めるが、男と娘の会話はイマイチかみ合わない。三角を待つ間、三角と彼らをめぐる物語の過去を辿っていく…というお話。

ストーリーが進む方向は途中からなんとなく見えてきますが、それでも小説としての面白さを最後まで保っていられるような、安心感のある一冊でした。複数の人物が時代をまたいで登場するので、全体を把握するのにちょっと頭を使います。そこもまたこの作品の良さなのでしょうが。

2017年に単行本が出版され、今年10月に文庫化された本書は岩波出版から出ていますが、岩波文庫じゃないんです。「岩波文庫的」。なんじゃこりゃ?と思って調べてみると、装丁や細部を微妙に崩しながら岩波文庫「風」の文庫本に仕立てた自社パロディだそう。単行本が発行されてまだ二年半しか経たない本書を、佐藤正午さんご自身が岩波出版へ文庫化の打診をしましたが断られ、岩波文庫がダメならそれ風の…といったようなやりとりがあり、編集者さんの粋な計らい(おそらく)で実現したとのこと。岩波さん、素敵です。

そして何より印象的なのは巻末に収録されている、伊坂幸太郎さんの特別寄稿「解説はお断りします」。解説ではありません。本書の解説の寄稿を辞退したという断りの文章です。読んでいただければわかりますが、伊坂さんの佐藤正午さんに対する愛情あふれる文章となっています。本書はこれも含めて素敵な作品です。

レビュー投稿日
2019年10月18日
読了日
2019年10月17日
本棚登録日
2019年10月17日
8
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