家郷の訓 (岩波文庫 青 164-2)

著者 :
  • 岩波書店 (1984年7月16日発売)
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感想 : 21

1984年(底本1943年)刊。

 全国踏破で固有の民俗学を切り開いてきた著者は、戦前来、そして戦後も多くの人々の謦咳に接し、古老らの経験を聴取・記録してきたことはつとに知られている。
 一方、戦前に著者の収集した記録は戦災で焼失し、およそ復元不可能な状況に至ったことを知っている人もいるだろう。
 そういう意味で、終戦前に刊行された本書には燦然と輝く価値の有することを首肯されるはずだ。
 本書は著者の故郷(山口県周防大島?)における体験的叙述を軸に、江戸期から続いてきた地域の生活の実をビビッドにうたいあげる。

 若者衆と娘衆などの関係、あるいは子供の遊戯の変遷、子供に課された仕事・職責の実といった生活密着型の叙述が大半である。

 が、社会との関係性や風潮を垣間見せる叙述も含まれており、これもまた見逃せない。
 例えば、
①米収穫におけるマンパワーの要請から、大島から水田地域に出稼ぎに行き、その報酬が米の現物支給で支払われていた点(=米の貨幣代用物としての意義とそれが明治以降もある程度残存してきた点)。
②元々、村の中で識字能力の有していた者が子弟教育を担ってきた。
 が、いわゆる師範学校出身者による教育が主流に。その結果、学校教育こそ全てという風潮を持ち込み、村の慣習に配慮・尊重することが少なくなり、村衆との間で軋轢となっていた事実(教育近代化の得失)。
③WWⅠ時の好況が地域の貨幣経済化促進と富裕度を上げた点(ハレでなくても米を常食。都会へは出稼ぎではなく帰郷する人々が減少)。
④③とはいえ米麦の割合は3:7、麦飯中心も多かった。
⑤明治中期は大根飯が主(③~⑤は大正期における社会変貌の大きさ)等々。

 戦前、大正明治、さらには江戸後期の人々の生活の生の息吹を観取するに、現代でこれほどうってつけの書はなかなかないように思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2016年12月15日
読了日 : 2016年12月15日
本棚登録日 : 2016年12月15日

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