国際マグロ裁判 (岩波新書)

  • 岩波書店 (2002年10月18日発売)
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感想 : 8

2002年刊。著者小松は水産庁漁場資源課課長、遠藤は同国際課課長補佐。戦後の食糧難を支えた鮪を巡る日本の水産業と国際的関係について、条約の変遷、鮪漁業の変遷、海外鮪事情、鮪の調査採取に関する国際裁判の模様を論じる。言いたいことは山ほどあるが①官僚のプレスリリースを含めた戦術の拙劣さ、②弱者の戦略である国連利用、また国連設置の機構(国際海洋裁や国際司法裁など)の活用・準備・事前検討の拙劣・不備、③国際司法裁判所等に利用できる弁護士(日本の場合、法務省所属の訟務検事の拡充・活用も含まれよう)の少なさに暗然。
法廷の利用も外交戦略の一。そして、偶々、今回は結果としては勝ったものの(ただし、裁判所の管轄権で勝利を得ただけで内容の判断には至らず)、仲裁裁判に先立つ暫定措置では敗訴。その要因の一が、英語を母国語にする豪州・ニュージーランドの国連機構を利用することの有利さである。また、水産庁を越えた省庁横断的に豪州の環境問題を外交武器に使えない実情も感じ取れる。ちなみに、本書では、戦後の条約の変遷が丁寧な点は評価。また、条約に加盟せずに利得を貪る台湾漁業関係者とこれを援助・助長してきた日本の商社の問題も筆が及ぶ。
水産物に関しては、鯨は勿論、鮪に関しても、弱者の戦略を強かに実行する豪州・ニュージーランドとの外交が肝。一方、鯨と違い、鮪は大消費国(ユーザー)日本が、逆のヘゲモニーを握れるはず。環境を錦の御旗にしてきた豪州ら内の漁業関係者を日本の味方として、世論形成できるか。誠実に交渉することは重要かつ当然の有り様だとしても、相手国の意思決定に如何にコミットするか。もう少し考えてもいいのではないだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2017年1月24日
読了日 : 2017年1月24日
本棚登録日 : 2017年1月24日

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