ノモンハン 4 (朝日文庫 く 8-4)

  • 朝日新聞出版 (1994年6月1日発売)
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1994年(底本1989年)刊。全4巻中4巻目。
著者はサンディエゴ州立大学歴史学教授兼日本研究所所長。


 3巻で概ね戦闘は終了。本巻はノモンハン事件全般に亘る日ソ外交と、その陰で進展する独ソ交渉(独ソ不可侵条約締結後、第二次世界大戦開戦へ)にも筆を進めつつ、本事件の総括と、それが陸軍に対する教訓足り得たかという観点で終幕する。

 著者の
① 稚拙な日本外交と
② ノモンハン事件の教訓を無視する陸軍上層の姿勢に対する冷徹な痛罵が振るっている。
 お前ら「弩○○か」と叫んでいる声が聞こえてきそうなほど。

 まず第1は、独ソ交渉の意味と目的、その進展具合が彼方此方で発信されている点だ。しかも、その兆候に全く気付いていない駐独大使大□らの「○○さ」加減。しかも、不可侵条約締結後も丸め込まれている様は、ヒトラーとスターリンの嘲笑を呼んでいるにちがいない。
 第2は、機械輸送力・戦車力・航空機の優位性を認識しながら、結局、派手な航空機戦力にしか予算と人員を回さない。しかもそれも戦闘機だけというおまけつきだ。陸との共同戦では大小の爆撃機の意義は高いのにも関わらずだ。
 それよりも機械輸送力の軽視は何を考えているのやら…。
 第3は処分の適切さ如何だ。
 その一は、
① 捕虜の待遇だ。
 捕虜は情報流出の危険とともに情報収集と攪乱の要でもある点を等閑視。
 ②どう見ても策定した作戦とその指揮の誤謬が敗戦を招いたのに、処分されたのが口煩い現場担当に偏りがちな点。
 その処分基準の曖昧さと不公平さは、処分基準の未定の事実、敗戦隠蔽という軍の無謬性の確保、(陸)軍という組織が、実は戦時ではなく平時の官僚組織でしかないのかという疑念を生むものだ。
 
 さてソ連と日本。1920年代は明らかにソ連が後退していたのに、どうしてこれほど格差が、特に技術的な格差が生じたのか。
 ソ連がWWⅠの戦訓を正しく把握し、適切に資金を回した結果なのか。日本のWWⅠバブルと戦後不況が齎したものか?。

 本シリーズは米国人の日本近代史研究者で、元来光が当たらない日ソ関係を軸にしてきた人物の著作である。
 そもそも日本の近代史・戦史研究においてですら、体系的・通史的研究の乏しかったノモンハン事件につき、日ソ関係・外交・戦史・技術史など多角的に捉えたパイオニアというべき書でもある。加えて公平中立、軍関係者のリサーチも多元的で叙述も誠実な良書だ。またペレストロイカ以降の露の情報公開の進展を反映した意欲作といえそうだ。

 ただし、解説者秦郁彦氏の述べる如く、ロシア発の情報はまだ不十分であり、これらが更に加わればより良くなるはずだ。もっとも、現実は非公開という逆コースにあるようだが…。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2016年12月17日
読了日 : 2016年12月17日
本棚登録日 : 2016年12月17日

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