ウォール街の物理学者 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

  • 早川書房 (2015年6月4日発売)
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感想 : 14

2015年(底本2013年)刊。著者は米カリフォルニア大学アーバイン校准教授。

 物理学専攻の学生が、金融機関に就職するようになったのはいつからだろうか?。80年代以降のように思うが、本書は、それに先立つ戦後から現在まで、確率論・統計学などを武器に、米国にて金融市場の荒波に参画していった物理学者らの来し方を叙述する。

 金融工学という観点で、マイロン・ショールズやフィッシャー・ブラックが一世を風靡したが、そのLTCM破綻以降も、リスクの数値化を精緻化する試みは断続的に続き、また失敗も繰り返されている。
 かように続く失敗は、策定され更新され続けるリスク分析の数理経済モデルが、常に何らかの条件付きの産物で、須らく限界を持つにもかかわらず、その事実を運用する側、モデル利用者側がついぞ忘れてしまいがちという点に由来する。
 しかも、新規に生み出される数理モデルをも「環境」が取り込んでいく中、経済的リスクは、その環境との相互作用によって変貌していく。
 したがって、過去データに依拠するモデルは、将来の近似解を見つけ得ても、完全解は掴まえ得ないと考えられるからだろう。

 加えて、近似解を得るための数理モデル。これすら通常人が理解・把握・利用することは不可能な中、かかる数理モデルに依拠するリスク、就中デリバティブと言われる領域に、投資という名目で素人が関わることの危険性に思いを馳せずにはいられないところだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2017年2月5日
読了日 : 2017年2月5日
本棚登録日 : 2017年2月5日

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