愛の試み (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1975年5月28日発売)
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本棚登録 : 732
感想 : 52
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福永武彦による愛と孤独についてのエッセイ。挿話として掌編小説9編も併録。愛や恋の心的プロセスや愛において陥りやすい錯覚についても鋭く分析。人が愛を求めるのはそれ自体が本能であるのと同時に劇的な作用を齎す、劇薬だからなのだと感じました。でも劇薬としての愛は持続性に乏しく、一瞬の情熱に他ならず、それは錯覚と等しい。愛が終われば何も残らないと私は常々思っていたのですが『失恋』の項目では『彼が自己の孤独を凝視する機会を得たことは、かえって悦ばしいことではないだろうか。なぜなら、人が生に向かって出発するのは常に孤独からなのだし、もし彼がその絶望に負けたきりにならないで、再び生に出発するならば、次の機会に愛を試みる時には、彼は愛が孤独の上に立脚するものであることを充分に理解しつつ、自己を投企することが出来るだろうから。そしてたとえ失敗を繰返そうとも、愛に於て失敗することは少しも恥ずべきでないことを知るだろうから。(中略)彼は孤独を恐れないように、最早、愛をも恐れないだろう。』この辺りは目から鱗が落ちました。この本は定期的に読み返したい良書。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学
感想投稿日 : 2019年12月22日
読了日 : 2019年12月22日
本棚登録日 : 2019年10月2日

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