巡礼

著者 :
  • 新潮社 (2009年8月28日発売)
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感想 : 63
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・次の朝、修次が目を覚ますと、隣の布団の中で、兄はそのまま死んでいた。その表情はなにも語らず、ただそのままになっていた。

・死んだことに驚きながら、修次は「兄貴にすれば、生きようとすること自体がつらかったのかもしれない」と思った。兄が死んだことをまず認めてしまった修次は、その冷静さ図々しくも思って、試すように兄の体に手を掛けた。「兄貴!」と揺すって命を呼び戻そうとしたが、忠市は冷たくなって答えなかった。「答える」ということから自由になった体は、固く、ぎこちなく揺れるだけだった。
「自分はもう、ずいぶん昔から、ただ意味もなく歩き回っていたのかもしれない」と思った時、忠市の体は、深い穴に呑まれるようにしてすっと消えた。「生きる」ということの意味を探るため、弟と共に歩き始め、「自分がなにをしている」とも理解しなかった忠市は、自分が巡るあてのない場所を巡り歩いていたと理解した時、仏の胸の中に吸い込まれて行った。拒まれるのではなく、招かれることを素直に受け入れて、「会いたい人に会いたい」と思いながら、どことも知れぬ虚空に吸い込まれて行った。
修次は、暗い闇の中にいた自分の兄が、金色の仏と夜の中で出会ったのだと思った。そのように思いたかったー。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2016年11月16日
読了日 : 2012年5月24日
本棚登録日 : 2012年5月24日

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