ハプスブルクの宝剣 上 (文春文庫 ふ 13-1)

著者 :
  • 文藝春秋 (1998年6月10日発売)
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感想 : 51
5

歴史好きで、予てよりハプスブルク家に興味があり、既に何冊か歴史書を読んでいた為にタイトルに惹かれて読んでみた。
若い頃、夢中になって本を読んでいた私だが、ここ最近は心に深く感じる本に出会う事が少なく、読書意欲もイマイチだったのだが、久しぶりに感動する本に出会った感である。
私にとっての”藤本ひとみ”は、ティーンズ向けの青春小説作家であり、彼女が歴史小説を
幾つも書いているなんて全く知らなかったので、最初はあまり期待していなかった。
だが、実際に読み始めてみると、その筆力に驚いた。すぐに物語の世界へと引き込まれ、上下巻をあっという間に読み終えてしまっていた。
後に残った読後感は、憤りと熱情と爽快さであった。

物語は18世紀初頭のヨーロッパ。
主人公はユダヤ人の青年。
当時のユダヤ人は、どこの国でもユダヤ街に隔離されていて、社会から疎外されていた。
彼は、比較的人種差別の少ないイタリアの大学で学び、ユダヤの閉鎖的な性質を変えてゆき、もっと心を開いていきさえすれば、他の民族に受け入れられると考えて、ユダヤ教典をドイツ語に翻訳する。だが、その行為を故郷の人々に非難され、尚且つ、地元の有力者の令嬢と恋に落ちたが為に、その婚約者から残虐な拷問を受け、片目を失う。
拘束され、今にも死にそうな彼を救ったのは、その屋敷にたまたま滞在していた未来のオーストリア女帝マリー・テレジアの夫にして神聖ローマ帝国の皇帝となるべき人物だった。
こうして、彼の、ハプスブルクの宝剣と呼ばれる人物になっていく、数々の苦労と恋と挫折と
回生の物語が始まるのである。

この小説で一番感動したのは、やはり主人公の魂の回生だと思う。同じユダヤ人から追放され、ユダヤを憎み、名前を変えてオーストリア人になろうと死ぬほどの努力をしたものの、結局はオーストリア人にはなれず、様々な挫折を繰り返していく中で、真実を見出していく姿に、胸が切なくなった。
それと、この小説では、実に人物の書き分けがよくできており、外国人の名前なんて馴染み
が薄い日本人にも、何度も前に戻って確認するなんて事がない位、明確に描かれていて、それがまた、実に魅力的なのだ。
動乱のヨーロッパの時代だけに、有名どころも多く登場する。特に、オーストリア女帝の
マリア・テレジアと主人公が恋に落ち、物語の運びにこの恋が大きく影響しているのだ。
とにかく、最後まで退屈させない物語である。歴史に興味のない人も、楽しめる事間違い無しのお薦め作品である。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 世界史・小説
感想投稿日 : 2006年6月1日
本棚登録日 : 2006年6月1日

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