この物語を読むきっかけになったのは、ある漫画だった。
だから読み出した始めは、頭の中で動き出す人物たちが皆そのイメージから離れなかったが、物語が進むにつれていつしか漫画の趣は消え、光線を帯びた人間として舞台を織り成していく。
弁護士である語り手が、書記として雇ったバートルビーという青年の人生と人柄を、自身の心情を豊かに綴りながら物語が作られていく。
独白であるから、主人公の心の動きが細やかになぞられていく形になる。
それだけで、まるで花弁を静かに開いていく様を思わせる。
初めは弁護士や他の雇用人、言ってみれば社会的な観点からすれば「普通に」仕事をこなしていたように見えたバートルビーであったが、徐々に彼を取り巻く人々との間に奇妙な問題が浮かび上がってくる。
最後に主人公はバートルビーの僅かな過去を追い、彼を解釈しようとするが、謎だったものがさらに深い謎となって、物語の幕が下りる。
物語としては短いが、人間の複雑で未知の部分を簡潔に表したものだと思う。
どんな人が欠けても、人間の良さを本当には感じることが出来ない。
そんな気持ちにさせてくれるいい物語だと思う。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
物語
- 感想投稿日 : 2017年5月12日
- 読了日 : 2016年7月4日
- 本棚登録日 : 2017年5月12日
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