Jポップとは何か: 巨大化する音楽産業 (岩波新書 新赤版 945)

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  • 岩波書店 (2005年4月20日発売)
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Jポップを取り巻く経済と社会から論述してある。多くの音楽についての論述は、その中身から語るか、その取り巻きから社会心理的に語ることが多いが、多くの取材を通して経済的側面と社会的側面から述べられており、労作であると同時に分析に力強ささえ思える力作である。■旧来のロックシーンでのプログレやそのあまりに技巧に走った音楽に対する反抗としてのパンク現象は、社会の運動であり、また音楽の運動、現象であり、その運動や現象にプログレあるいはパンク、近くはグランジとして実態を表現できる呼び名が付けられた。■しかし、Jポップは、音楽業界が起したカテゴライズしたブームであり、その是非はともかく、仕掛けられたものであるとする。
■デジタル化の影響としてMIDI、CDであり、それらは製作面でも機械とコストダウンと時間の短縮化が現場では図られた。プレーヤーの大衆化によって、一家に一台から一人に一台へとプレーヤーが莫大に増える。楽器を弾かなくても良い音楽製作。
■TVとヒット曲のタイアップとしてのCM。CMに使われる曲は、15秒である。つまりさびの部分だけ印象的に仕上げれば、成功した曲になる可能性が多い。よって、さびの部分と全体が違和感を持った曲が時として製作されることにもなる。TVドラマの主題歌のヒットは、ドラマの終焉と同時に起こる現象、すなわち長く続かないヒット曲現象、が、興味深く具体例を出して論じられる。
■TVタイアップ現場では物議をかもさない曲の選考、最初から表現の多様性を放棄し、最大多数が合意可能な範囲で作ることを目指している。■広告表現と音楽表現は、最終目的がまったく違う。作者は音楽が企業の営利活動と手を結ぶことそのものが商業主義で許されないという極端な主義を取っているものではない。
■「ココロ」の時代の音楽受容
聞き手の変わり方として、カラオケの巨大音楽メディアとして考えられている。通信カラオケによってカラオケボックスという音楽革命がされたとする。一般に、カラオケの利用客は、昼間では主婦層、午後には、学生層が多い。カラオケボックスが、「70年代が「学習社会なら、80年代は「表現社会」だ。学習という情報のインプットばかり続けていた人々は、アウトプットを求めて破裂しそうになっている。いま教養とエネルギーのある女の人達を襲っているのは、自己表現への欲求だ。その上、近代社会の私たちは個性という悪夢に取り付かれているから、誰もが表現すべき自己を持っていると信じ込んでいる。■80年代は自己表現が大衆化する時代だといえる。誰もが即席にシンガー・ソングライターになり、自分史をつづる。」「増補<私>探しゲーム」上野千鶴子
84年には、自分を中流と看做す人が、人工の81%にまで増え、「中流意識の飽和点」に達した時代でもある。二人にひとりが大学、短大、専修大学に通うようになったのは、885年だとされる。日本人が追い求めた「平等化」は、「均質化」へと変貌し、かえって「個性」化への憧れをはぐくんだ時代でもある。違いがわかる「中流」85年度の国民白書はそのように記している。
 ■カラオケボックスの興隆は、娯楽の多様化のひとつの形態であると同時に「均質化」した社会の「自己表現」の媒体ともなった。自己表現を通じて自分自身になろうと欲する潮流がこのあたりから始まる。自己愛的な自己表現は、「その商品を所有する自分を好きかどうかである」自分がその商品を持つこと、カラオケではその音楽を歌い上げる自分が好きかどうか、自分を是認できるかどうかが基準となる。
 ■日本という音楽産業のかたち
98年レコード生産額が6074億、10年で市場規模を2倍にした、「Jポップ的セールス」。2004年3773億にまで現象。これは、88年から89年の市場規模である。
■世界第二位の巨大市場としての日本。音楽の輸出はほとんどまったく無い驚嘆な国内市場に依存する日本。洋楽が、全体の1/3を占める。コンサートチケットを買い取ったり、協賛金を出したりする「アーチスト助成費」のカット。レコード会社の出す「事務所助成費」の削減が、「アーチスト」側には相当に響いた。「マネージャー一人とアルバイトで一つか二つのバンドを抱える事務所なら、それだけで食っていけるとされた資金がカットされることになる。
■インディーズの売上額は、日本レコード協会に加盟するメジャーレコード会社からの出荷額のおおよそ5.9%に相当する。
■着メロの興隆、着歌の隆盛。音楽再生機としての携帯電話の普及8466万台。
着メロの著作権使用料徴収額75億
通信カラオケの著作権使用量徴収額55億。
着メロに適した曲の条件、「耳に残るさびの部分が5秒あればいい」レーベル・モバイル社の上田正勝社長(エイベックス出身)
など、Jポップの社会現象を経済的側面からも「冷静」にみている。この手法に賛否あるかもしれない。■しかし、生活が懸かっている音楽家たちがごく一部を除いて、殆どである現状からすれば、音楽家を取り巻く状態を、また音楽の業界の姿を知っておくことも重要なのではないか、「音楽」ファンであればなお更のことではあるが・・・。■欲を言えば、「電通」の広告代理店的な上からの文化創造について、疑問を呈してももらいたかったが・・・。まあ、いいかぁ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文化
感想投稿日 : 2005年11月2日
読了日 : 2005年11月2日
本棚登録日 : 2005年11月2日

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