兵士に聞け (小学館文庫 (す7-1))

著者 :
  • 小学館 (2007年7月7日発売)
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感想 : 7
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かなり面白いノンフィクション。題材は自衛隊、従って、題名「兵士に聞け」の「兵士」は自衛官のことである。レンジャー訓練・護衛艦・奥尻島の部隊・カンボジアでのPKO活動等がテーマになっている。
筆者は個々のテーマに関する丹念・丁寧な取材と、そこで働く自衛隊員への、これも丹念・丁寧な聞き取り、インタビューにより、自衛隊・自衛官のその場その場での行動・働き方を記録している。自衛隊と言えば、特に本書でも扱っているPKO活動への参加をめぐって、その活動が憲法に違反するのではないか、といった議論が盛んに行われたことを思い浮かべることが出来るが、筆者はそういったことに対して、一言も私見を述べていない。ただただ、丹念にそこでの個々の自衛官のあり様を記録するのみである。
考えてみれば当たり前のことなのだけれども、自衛隊という組織は個々の自衛官の集合体である。組織としての役割や、左右両派からの政治的な言説や評価、あるいは上述した憲法の観点からの位置づけ、といった視点で自衛隊を論じることは可能であるし、むしろ自衛隊を論じる場合には、そういったやり方で論じられることの方が多いように感じる。この本で筆者は、そういう観点からの論じ方をいっさいしておらず、ひたすらに個々の自衛官の個々の場面での行動や考えを記録するのみである。大上段にふりかざした「あるべき論」的なものではなく、個々人の集団である自衛隊の「かくある論」を、それも出来るだけミクロな視点で記録している。そういった微視的な視点で個々の自衛官を見れば、これも当たり前のことなのであるが、個人個人は個性を持ち、自衛隊の仕事を職業と考え一生懸命に努力をしあるいは手を抜き、喜び悩み、という具合に、他の例えば会社組織に勤める個々人がそうであるのと同じ仕方で働いている人たちなのだということがよく分かる。それはもちろん全体を現しているわけではないし、自衛隊に関しての言わば形而上学的な考察を与えてくれるわけでもない。それでも、この方法論は、自衛隊というものに対する深い理解を与えてくれる優れた方法のような気がする。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2008年10月28日
読了日 : 2008年10月28日
本棚登録日 : 2008年10月28日

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