シズコさん (新潮文庫)

  • 新潮社 (2010年9月29日発売)
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本棚登録 : 1041
感想 : 128
5

■ネタバレがあります

佐野さんが、お母様とご本人の一生に渡る関係を書き切った自伝的なエッセイ。
佐野さんは、お母様からの愛情を感じない。ご自身も、お母様をはっきりと嫌っていて、その嫌っていること自体に強い自己嫌悪を感じている。お母様の晩年、老人施設に預けることになったが、それを佐野さんは、お金で母親を捨てたという、これも強い自己嫌悪を感じてしまう。
佐野さん一家は戦前、北京に住み、戦争が終わってから、日本に引き揚げてくる。結局、お母様は7人の子供を産み、うち、3人の男の子を亡くしてしまう。話は、佐野さんの幼少時代から始まり、引き揚げ後の一家の生活ぶりを描く。その中に、自分と母親との関係を織り込みながら。描写は事細かく、繰り返しの多い執拗なものだ。
母親を嫌っていることに自己嫌悪を感じている人間にとって、そういう風に母親のこと、母親との関係を事細かに描くことは、とても辛い作業だと思う。佐野さんが、自分を切り刻みながら書いていることを感じてしまう。
しかし、最後に救いがやってくる。
それは、施設のお母様の部屋で2人で子守唄を歌い母親の白い髪の頭をなでている時に、突然やってきた。
少し長いけれども、この部分を引用する。

そして思ってもいない言葉が出て来た。
「ごめんね、母さん、ごめんね」
号泣と云ってもよかった。
「私悪い子だったね、ごめんね」
母さんは、正気に戻ったのだろうか。
「私の方こそごめんなさい。あんたが悪いんじゃないのよ」
【中略】
何十年も私の中でこりかたまっていた嫌悪感が、氷山にお湯をぶっかけた様にとけていった。湯気が果てしなく湧いてゆく様だった。

本書には圧倒されたが、特にこの部分には言葉もなくなった。
お母様との関係を考えることは、自分を見つめ直すことだと思う。それを考えながら、佐野さんは、自分自身の嫌なところ、とった行動に対する後悔などと向き合ってきたのだろう。
だから、最後に、この救いを得ることができたのだと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年10月6日
読了日 : 2020年10月6日
本棚登録日 : 2020年10月5日

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コメント 2件

nejidonさんのコメント
2020/10/06

sagami246さん、良いレビューですねぇ!
思い出してちょっとほろっとしてしまいました。
一時期佐野さんと一緒に暮らしていた谷川俊太郎さんが、佐野さんのことをこう言ってました。
「どこにでもいるごく普通のお母さんなのに、どうして洋子さんはあんなに嫌うんだろう」
傍からは見えないからこそ親子関係って難しいんでしょうね。
憎んだまま亡くなってしまったら、どれほど後悔したことでしょう。
この本は色々なひとにお勧めしてきました。
sagami246さんにも読んでいただけて本当に良かったです!

sagami246さんのコメント
2020/10/07

nejidonさん、おはようございます。
コメントありがとうございます。
強烈な本でした。最後の和解の部分の記述は、佐野さんの感情に圧倒されました。
私の気持ちを中和する意味で、内田洋子さんの軽く洒落たエッセイを読み始めました。
佐野さんも、内田さんも、nejidonさんにお勧めいただいた作家です。ありがとうございます。
nejidonさんのレビューも、楽しみに読ませていただいています。

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