人間の認知能力には限界がある。どうしても本能的な思い込みを避けられない。本書の筆者は、その思い込みを10に分類し、それぞれの特徴を示すと同時に、その思い込みを避ける方法も提示している。
方法に共通しているのは、事実に基づいて物事を見ること、考えること。
そんな当たり前のことを、と思われるかも知れないが、この本を読むと、自分自身も、その思い込みから無縁でないことを思い知らされる。

2021年5月9日

読書状況 読み終わった [2021年5月9日]

初めて読む須賀敦子は、引き込まれるように読み終えた。
本書の解説を関川夏央が書いているが、その解説と、Wikipediaで調べた須賀敦子の生涯は、おおよそ下記のようであった。

■1929年生まれ。
■20代の終わりからイタリア在住。1961年にイタリア人と結婚するも、1967年に夫が急逝。
■1970年に父親が亡くなる。翌年1971年にご本人も帰国。大学の講師から教授まで務める。
■作家としてのデビューは、1990年、61歳の時。「ミラノ 霧の風景」がデビュー作。
■1998年没。

本書、「ヴェネツィアの宿」は、1993年の作品。
少女時代から、ヨーロッパ滞在中の出来事を綴った12編から成るエッセイ集。とても美しい文章。
特に最後の2編は、夫と父親の死を題材にしており、淡々とした中に哀しみが感じられる。死後20年以上を経てからの文章であり、逆に言えば、このような文章として仕上がるためには、20年以上が必要だったのだと思う。

2021年5月8日

読書状況 読み終わった [2021年5月8日]

Wikiで沢木耕太郎を調べてみると、デビュー作は「若き実力者たち」で、1973年の発行ということなので、デビュー作から、もうすぐ50年ということになる。その間、ノンフィクション、エッセイ、小説と幅広く、息長く活躍している作家だ。
私自身は、ノンフィクションは、ほとんど読んでいると思うし、エッセイも、この第3エッセイ集まで全て読んでいる。一番好きな作品は、なんと言っても「深夜特急」であるが、いずれにせよ、一番好きな作家の一人だ。
ノンフィクションとエッセイのどちらが好きかと言われると、ノンフィクションの方だ。エッセイは、長いものは、それなりに楽しめるが、短いエッセイは、あまり上手くはないように感じる。
本エッセイ集も、私としては、面白いものと、やや退屈なものが混じっている印象。スポーツに関するもの、特定の人物にかかるものは読ませるが、その他の、特に短いものは、そんなには楽しめなかった。

2021年4月25日

読書状況 読み終わった [2021年4月25日]

1960-70年代に比べると、学生は社会を良くする活動に参加しなくなったと言われている。筆者は、そういうことではないと訴える。たしかに以前に比べると、数は少なくなったが、社会がもっと良くなってほしいと思い、それに向かって活動をしている学生がいる、としている。そして、本書によって、その学生運動の記録としたい、という趣旨で書かれたものである。

「なぜ、この時代に彼らは活動するのかを知りたい。」

430ページを超える本。インタビューを中心とした取材量は膨大である。が、いつどういうことがあって、それに参加した学生は、それをこういう具合に話しているという事実関係の羅列の本である。
個々の「彼ら」が、なぜ活動しているのか、は語られているが、時代背景や以前との違いなど、「この時代に」という部分は語られていないし、筆者も述べていない。

2021年4月25日

読書状況 読み終わった [2021年4月25日]

題名の「師弟」は、将棋の師匠と弟子を指す。
プロ棋士になるためには、奨励会という養成機関に所属し、そこでの闘いを勝ち抜かなければならないが、その奨励会に入るためには、現役のプロ棋士である師匠の推薦が必要。ということなので、プロ棋士には必ず師匠が存在する。
本書は、若手棋士6名とその師匠、すなわち将棋界の6組の師弟に関する話である。
素晴らしく面白かった。
筆者の野澤さんは、もともと写真家であるため、本書には、野澤さんが撮影された写真が使われている。その中に、私にとって印象的な写真が2枚あった。

1枚目は、藤井聡太との対戦を前にした、佐々木勇気六段の写真。藤井聡太は、現在2冠であるが、中学生で棋士になったことで注目を集め、プロ入り後は、初戦からの公式戦29連勝という新記録をつくり、更に注目を集めた。そして、30戦目の相手が、写真の佐々木六段であった。写真は、将棋盤の前で腕組みをする佐々木六段の上半身を写している。盤上の駒は、まだ動いていないので、対局前。佐々木六段の後ろには、大勢の記者・カメラマンが控えている。対戦相手の藤井現2冠を撮影するためである。そして、印象的なのは、佐々木六段の眼光と表情。鬼気迫るという表現を使いたくなる。この闘いにかける意気込みを感じる。
結果は、佐々木六段が先輩棋士の貫禄を見せ、藤井聡太現2冠の連勝を29でストップした。

2枚目は、これも藤井聡太現2冠と、藤井の師匠である杉本七段の、対戦前の1枚。
将棋盤の前に藤井聡太現2冠が、正座をして対戦相手である、杉本七段を待っている。今ちょうど、藤井聡太の後ろの襖が開いて、師匠の杉本七段が対局室に入室してきたところ。杉本七段は、歯を食いしばりながら、左の頬を膨らませる、気合いが入った表情をしている。
写真のキャプションには、杉本七段は入室したとたん表情が勝負士のものになったと書かれている。
結果は、藤井聡太現2冠の勝ち。将棋の世界では、弟子が勝つことを、「恩返し」という。恩返しを果たした訳だ。

写真ばかりではなく、引き込まれるように読んでしまう話が沢山。

2021年4月22日

読書状況 読み終わった [2021年4月22日]

日本企業とワールドクラスの企業の、経営のやり方の違いを論じたもの。大きくは、グローバルマネジメントの方法論・組織設計の思想・コーポレートのあり方、の3つの側面について論じている。また、内容をアカデミックな知見と、実際のワールドクラス企業の実例を用いながら、それらを分かりやすく解説している。
いくつも興味深い論点があったが、コーポレートの話が面白かった。日本企業は、「小さな本社」「大きな本社」という議論が好きなようであるが、質的な側面の議論がなされないことに疑問を呈している。コーポレート部門について、書中、「強い・弱い」という言葉を使って議論が展開されているが、要するに会社全体の経営にとって、貢献しているか・役に立っているかどうかがまずは重要、という、考えてみれば当たり前の議論だ。私自身も、実際に会社で仕事をする中で、効率だけが論じられることがあることに違和感を感じる場合がある。「効率性よりも効果性」が大事なはずのものに対してもである。
といったような、考えるヒントになるような話が多い、面白い本だ。

2021年4月21日

読書状況 読み終わった [2021年4月21日]

スリー・ライオンズは、サッカーのイングランド代表の愛称。サッカーの母国イングランドであるが、国際大会での戦績は、今一つ奮わない。ワールドカップ(W杯)では優勝が一度あるが、それは1966年、今から50年以上前のことである。ヨーロッパ選手権(ユーロ)では、優勝経験がないばかりか、決勝進出が一度もなく、一度の準決勝進出が最高成績である。
筆者のヘンリー・ウィンターは、イングランドの記者であり、熱狂的なイングランド代表のサポーター。50年以上に及ぶイングランドの低迷の理由を特定し解決すべく、色々な人にインタビューし、また、提言を行う。イングランド代表のことだけをテーマとした、550ページ超の大部の書であり、その量と内容と筆者の情熱に圧倒される。

翻って、我らが日本代表はどうか?
私は、自分でサッカーをプレイしていた経験があり、サッカーは観ることも好きだった。最初にちゃんと観た国際大会は、1978年のW杯アルゼンチン大会。ケンペスの活躍で、アルゼンチンが初優勝した大会だ、その頃の日本は、サッカーの弱小国。正直、日本がW杯に出場することは、全くイメージ出来なかった。
日本サッカーのレベルが急激に上がるのは、Jリーグ設立が決まってから。W杯出場を初めてイメージ出来たのは、1994年のアメリカ大会。残念ながら、予選の最終戦のアディショナルタイムにイラクに決められた同点ゴールにより、本大会出場を逃してしまう。いわゆる、「ドーハの悲劇」である。この時の主力選手の一人が、三浦カズ。未だに現役のJリーガーなのは、驚き。
1998年のフランス大会は、予選を苦戦しながらも、なんとかイランとのプレイオフに進出する。一進一退の試合は、延長後半の岡野のゴールデンゴールにより勝利し、本大会出場を決める。本大会は、3戦全敗であったが、中田ヒデが大会後セリアAに移籍し活躍。日本人でも、ヨーロッパのリーグで通用することを示してくれた。
2002年は日韓大会。本大会では、初めての勝ち点、初めての勝利、初めての予選リーグ突破などにより、日本中が熱狂した。決勝トーナメントは一回戦でトルコに敗退。
以降、2006年ドイツ、2010年南ア、2014年ブラジル、2018年ロシアと、いずれの大会も本大会に出場を果たす。このうち、南アの大会、ロシアの大会では決勝トーナメントに進出するも、いずれもトーナメント初戦で敗れてしまう。
長々と書いたが、日本はW杯には6回連続で出場しており、そのうちの3回は予算リーグ敗退、3回はベスト16止まりという戦績である。
ということで、実際には、イングランド代表の戦績には全く及ばない。しかし、時に代表監督批判はあるが、選手や日本サッカー協会を含めた日本代表全体に対する大きな批判は、今のところあまりない。我々の世代にとっては、上に書いたように、日本代表の弱い頃を知っていて、今の戦績は、ある意味で期待を上回るものであるからということもあろう。それは、我々の世代だけのことではない。ロシア大会で、最後はベルギーに2対0から逆転されて敗退した時も、ベルギー相手によくやったというのが、日本代表に対してのコンセンサスだったと思う。日本代表に対しての期待レベルは、今のところ、W杯本大会での決勝トーナメント進出なのだと思う。

とまぁ、代表チームのことを語り始めると止まらなくなることは、イングランドも日本も変わらない。

2021年4月17日

読書状況 読み終わった [2021年4月17日]

週刊文春に、将棋だけを扱ったオンラインサイトがあり、その中の記事を編集したMOOK。副題に「棋士が語る 藤井聡太と羽生世代」とあるが、MOOK全体を貫くストーリー的なものがあるわけではなく、また、藤井聡太とも羽生世代とも関係のない記事も多い。だからと言って、面白くないわけではない。一つ一つの記事の中には、面白いものも多い。Numberが、Web版を作っているが、ちょうどそれの将棋バージョンといった趣きのもの。
もう一つの特徴は、棋譜が掲載されていないこと、というよりも、実際の将棋の指し手に関する記述がほとんどないことである。インタビュー記事も多いのであるが、指し手に関する質問は、ほとんどない。従い、記事の中身の多くは、棋士の人間的な側面にフォーカスしている。私の知らない若い棋士に関する記事も多いのであるが、それでも、全ての記事を読んでみる気にさせるくらいの面白さはある。将棋の将棋的側面のない本でも、面白く読ませる事が出来るのだな、と感心した。

2021年4月17日

読書状況 読み終わった [2021年4月17日]

途中で読むのを諦める。
もちろん、まともな事が書かれているけれども、どこかで読んだようなことばかりだし、何故か、読み物として面白くない。
好みの問題だと思うが、私には合わなかった。

2021年4月12日

読書状況 読み終わった [2021年4月12日]

マクロで言えば、今の日本の経済が抱えている問題は二つに集約出来るのではないかと思う。一つは、日本の経済が成長しないこと。もう一つは、経済が成長せず、一人当たりのGDPや所得が増えない中で、個人間の所得格差は広がっていることだ。
本書は、二つの問題のうちの前者、日本経済が成長しないことによって起こっている、様々な現象についての問題提起である。

扱われている現象や問題は下記のようなものだ。
■物価が上がらない。国際比較をすると一目瞭然であるが、日本の物価は先進国の中で、あるいは、アジアの新興国と比べても相当に安い水準にある。これは、経済が成長せず、人件費も上がらないことの結果でもあり、原因でもある。
■上でも触れたが、結果的に賃金が上がらない。賃金が上がらないということは、所得水準・購買力が上がらないという事なので、経済成長が起こらないという悪循環となる。
■日本では物価が安いので、外国人にとっては、お値打ちの物が多く、色んなものが買われる。インバウンド需要や爆買いは、その典型。
■経済が成長しないということは、国際比較上、徐々に相対的に日本は貧しくなっているということ。国際価格がついているもの、例えば、水産物、あるいは、IT技術者の給料など、日本が買えなくなりつつあるものが増えている。

私は、2003-2004年にイギリスに留学して以降、2004-2008年はグローバルの事業開発に携わり、世界中の色んな国に年間100日くらい出張していた。また、2008-2013年はタイで駐在員経験をし、その後も、コロナ前までは、年間に何回かは海外出張に出かけるという生活をしていたので、日本国内の物価が相対的に安いのは、実感していた。
上記の内容は、特に目新しいことではなく、すでに、ある意味で共通認識になっていたことではあるが、改めて、整理して示されてみると、結構、衝撃的な内容である。

こういったことについて、エコノミストや学者等が、色々な視点でコメントや提言を行なっている。これも、なかなか面白いものだった。日本の雇用システムについてのコメントをされている方が結構多く、私自身が人事の仕事に携わっていることもあり、興味深く読んだ。ティピカルには、下記のような内容。
■雇用を流動化すべき。一人一人の価値、すなわち、賃金決定に市場価値の概念を取り入れるべき。これにより、賃金が上がる仕組みをつくるべき
■同時に、一人一人が自らの職業能力、すなわち、市場価値を上げるべく努力すること。国や企業は、その努力を後押しすること
こういったことは、結局は、終身雇用制度を崩すことになり、安定的な雇用という面では、混乱もあり得ると思う。しかしながら、中長期的には、こういったことにならざるを得ないのではないかと私も思う。

2021年4月11日

読書状況 読み終わった [2021年4月11日]

ミンツバーグ教授の新刊。
教授のブログから選んだものを本にしたものであり、これまでの教授の著作とは、少しテイストが異なる。エッセイ集的な印象を受ける本。内容自体は、これまでの教授の著作での主張に沿ったもの。
マネジメント・マネジャー・リーダーシップに関するもの。株主至上主義・資本主義に関するもの。組織や戦略に関するもの、などが収められている。

マネジメント、あるいは、リーダーシップに関する本は山ほどあるが、私はミンツバーグ教授の書かれているものが一番好きだ。
マネジャーには、ジレンマ的な、いまいましいことが、次から次に降りかかってくる。そういった中でも、何とか成果を出すのがマネジャーの役割。置かれている状況や、目指すべきものが、マネジャー一人一人異なるので、どんな場合にも通じるようなマネジメントの方法論というものはない。マネジャー一人一人が、現実を見ながら、考えながら、個々の場面に対処していくしかない。

2021年4月3日

読書状況 読み終わった [2021年4月3日]

組織行動論は、組織における人の行動を研究対象とする学問。組織の中で人がどのように感じ、そのような反応を示すのかに関して理論的に考えることで、組織の中の人の行動を理解し、説明しようとするもの。名称から考えると、組織に関しての学問のように思えるが、ヒトに関する学問である。
また、学際的な学問分野であり、経営学・心理学・社会学といったヒトと組織に関するさまざまな学問分野との関連性がある。
本書で扱われている項目としては、モチベーション、組織コミットメント、キャリア・マネジメント、組織市民行動、チーム・マネジメント、リーダーシップ、組織変革、組織文化など、幅広い。
10人を超える学者が執筆に関わっている。入門書であり、学部生の教科書として使われることが多いのではないかと思う。また、企業の人事担当者にとっても必須な知識だと思うし、また、マネジャーが読んでも、興味深い点が多いのではないかと思う。
幅広い分野が分かりやすくまとめられており、かつ、面白く読めた。

2021年3月29日

読書状況 読み終わった [2021年3月29日]

ブグログでは、自分の登録した書籍について検索がかけられるようになっている。その検索で調べてみると、本書で私が読む内田洋子さんの本は、10冊目ということになる。最初に読んだのが、「ジーノの家」で、これを2020年の7月に読んでいる。それから約8ヶ月で10冊。すっかりお気に入りの作家となった。
これまでの9冊に対して私が書いた感想も目を通してみた。色々なことを書いたつもりであるが、結局は、「内田洋子はうまい」という事だけが、殆ど唯一の感想として書かれている。本書に対しても、同じことしか書けない。内田洋子さんは、本当に上手い。

本書は、内田さんが移り住んだヴェネツィア、正確には、その対岸のジュデッカ島での生活で経験したことのあれやこれやをエッセイにしたものである。最初のいくつかのエッセイには、内田さんがヴェネツィアに移ろうとしたことの理由や、ヴェネツィアそのものがどういう場所であるのかの説明が、結構、書かれている。ヴェネツィアを知らなければ、内田さんが、ヴェネツィアに、ある意味で憧れている理由もピンと来ない。だから、最初のうちは、本書は、ヴェネツィアを知らなければ楽しめないかな、と感じながら読んでいた。
が、実際には、そんなことはなかった。
ヴェネツィアでの日常のあれやこれやが、主役であり、ヴェネツィアという場所が主役ではない。それは、これまでの内田洋子さんのエッセイと同じであり、徐々にそういったテイストにエッセイが戻っていき、ある意味で、安心しながら楽しむことが出来た。

2021年3月28日

読書状況 読み終わった [2021年3月28日]

お父様の死によって発生した10ヶ月にわたる、ご自身の相続税問題の経験を書籍にしたもの。書評での紹介記事が面白く、読み物としても面白そうだったので読んでみた。
私自身は、父は既に亡くなり、母は存命であるが、相続税が発生するような財産家ではない。ということなので、遺産とか相続税とかとは無縁。それでも、読み物としても面白そうと思って手に取ったが、やはり、あまりに関係がなさ過ぎて、とても面白く読んだ、とは言えない。

2021年3月26日

読書状況 読み終わった [2021年3月26日]

経営学の世界では、「リーダーシップ」や「マネジメント・マネジャー」は、多くの研究がなされている分野である。本書は、そういった、「リーダーシップ」「マネジメント・マネジャー」に関しての、これまでの学問的な研究の知見を整理して示してくれている。対象としている読者は、大学や大学院で経営学を学ぶ学生、新しくマネジャーになる、あるいは、なった人たちを想定していると紹介されている。従って、これまでの学問的な研究知見も、非常に平易に、かつ、コンパクトにまとめられている。
そういう意味では役に立つものであるが、理論の紹介が大部分であり、やや読むのに退屈な感じは否めない。

2021年3月19日

読書状況 読み終わった [2021年3月19日]

数年前の働き方改革議論や、最近のジョブ型人事制度など、人事の仕組みが新聞や雑誌で取り上げられることが多い。本書は2018年10月発行。日立やホンダなど、日本を代表する企業の人事施策改革の内容を紹介している。

人事施策を設計・運用するためには、三つのポイントがあると思う。
一つ目は、その施策や制度で何を目指すのかの設定。制度は、それ独立で存在するものではなく、何かを実現するための手段である。従って、何を目的として設定するかによって、その内容は大きく変わる。一番大きな目的は、どういう会社・組織になりたいのかというところからしか出てこない、要は経営の目的や目標をどう設定するかである。
二つ目は、そうやって設定して目的を実現するための、制度や施策の設計。この部分は、人事の専門性が最も発揮されなければならない部分である。
三つ目は、そうやって設計した制度や施策を、会社の組織の中にきちんと定着させて、設計通りの効果を発揮させることである。私自身は、ここが一番難しいところだと思う。制度や施策の設計は、ある意味で標準的なやり方があるし、極端に言えばコンサルに頼めるし、各社であまり大きな違いはない。ここをうまくやるには、制度や施策を人事だけで考えるのではなく、経営や現場と一緒に考え、設計すること、むしろ現場主体で設計を進めることが有効だと考える。また、大前提として、人財の育成・活躍が組織にとって最も大事なことの一つであるという考え方が組織の中に浸透していることが重要であるし、本当に効果が出ているのかを、常にモニタリングをしていく必要がある。

本書は上記の二つ目の制度・施策の設計の参考になる。一つ目と三つ目は、自分たちで考えるしかない。

2021年3月17日

読書状況 読み終わった [2021年3月17日]

キャリア論とかキャリア開発と呼ばれている分野は、経営学・組織行動論の一分野として成立している。筆者は大学の教授であり、本書は、キャリア論・キャリア開発について学ぼうとする大学生、大学院生を対象に書かれた、キャリア論という学問分野に関する入門書だ。

最近、日本的な雇用をメンバーシップ型雇用と呼び、諸外国で一般的なジョブ型雇用と比較する議論が盛んで、新聞や雑誌でも、よく取り上げられる。
新卒一括採用、終身雇用、年功序列的な処遇などが、日本的な雇用の特徴とされる。育成は時間をかけて、企業内で色々な職場や職務をローテーションで経験しながらなされる。雇用保証に重点が置かれること、社内ローテーションが、育成の大きな手段であることから、人事配置は、会社の側が決める、要するにキャリア決定の主体は企業側にあるという考え方が、日本的雇用の中では一般的であった。
ところが、経営環境が激変した。電機メーカーの例を見るまでもなく、業種によっては、グローバルな競争の中で、日本企業は、長期的に存続すら確かでない状況になり、終身雇用を雇用の基本に置くことが、実態として難しい時代になってしまった。
そういった中、働く個人にとっては、キャリアの主導権を会社組織に渡して雇用保証を期待するのではなく、世の中に通用する専門能力を身につけて、自律的にキャリアを考えていくことが大事であると言われるようになっている。

また、働き手も日本的な雇用が想定していた、新卒男子から大きく変わった。優秀な女性がビジネスの場でも活躍するようになったり、キャリア採用が増えたり、定年年齢が延びたり、外国人が入って来たりしている。
キャリア論を考える、本書でのもう一つの視点は、多様性である。
仕事の担い手の外形的な多様性ばかりではなく、個人の意識・事情も多様になってきている。
そういった中でのキャリアを考えてみることも、本書のテーマである。

キャリアにまつわる基本的な論点が分かりやすくまとまっている。
入門書としては、好適だと思う。

2021年3月13日

読書状況 読み終わった [2021年3月13日]

江戸についてのあれやこれやをまとめたもの。すごく広い領域を扱っている。江戸の成り立ちや歴史、住居、文化、娯楽、食べ物、貨幣、街道、浮世絵、名所、などなど。
去年の10月頃から、よく散歩をするようになった。距離も徐々に長くなって、スマホの歩数計によれば、2月は、1日平均約10km程度歩いていた。勤務は都内。在宅勤務も多いので、出勤するのは、週に2,3回といったところ。在宅勤務の日は自宅近辺を、出勤の時には都内を散歩する。出社・帰宅の際、当初は、1駅とか2駅歩く感じだったが、今では天気の良い日には、朝・昼休み・帰宅時のうち、都合が良いタイミングを選んで、かなりの距離を歩くことがある。時間にしたら1時間以上、5kmくらい歩くのは珍しくはない。それが、1日に2回とかも。
東京は広いようで狭いというか、狭いようで広いというか、そのような感じだ。
Google mapで調べると、桜田門から上野公園までが5.3km、銀座の三越から浅草寺までが5.6kmであり、1時間ちょっとで歩いていける。広いようで狭いというのは、そういう意味。
一方で、東京は、どこまで歩いても市街地が続いている。場所場所で、特色、個性はあるけれども、どんなに歩いても、家並みは途切れない。どこまで行っても東京。狭いようで広いというのは、そういう意味だ。
歩いていると、桜田門、とか、赤坂見附、とか、江戸時代の名残を残す地名も多いし、浅草寺とか築地本願寺とか、昔の面影を感じる場所も多く、江戸時代というか、江戸についての本を読んでみたくなり、何冊かを読んでいる。散歩も、東京・江戸読書も、もう少し続きそうだ。

2021年3月13日

読書状況 読み終わった [2021年3月13日]

今年の1月に亡くなられた半藤一利さんの、追悼ムック。半藤さんが編集者をやられていた文藝春秋社から発行されている。興味深い記事が多い。
中学や高校の歴史の授業は、受験の関係で、近現代史を、殆ど扱わない。受験勉強でも、近現代史、特に現代史は入試に殆ど出ないので、勉強しない。私の受験時代の話なので大昔のことであるが、少なくとも当時はそうだった。
半藤さんが書かれる歴史書は、逆に近現代史が中心。中でも、日本がなぜ必敗の太平洋戦争に突っ込んでいったのかが、主要なテーマである。半藤さんは、幕末・明治維新まで遡り、何故をクリアにされようとし続ける著作を多く書かれている。それを読んで、私も腑に落ちた。
亡くなられた後、何冊かの本を読み返している。
現代を知るためには歴史を振り返ることも、有効な手段だと、改めて感じる著作ばかりだ。

2021年3月12日

読書状況 読み終わった [2021年3月12日]

支援者の役割には3種類あり、支援者は、その時々の状況に応じて、それらの役割を選択しないといけない。
1) 専門家の役割; 必要に応じて専門的な情報やスキルを提供する
2) 医師の役割; 患者の状態を診断し、診断結果に応じた処方箋をつくる
3) プロセス・コンサルタント; プロセスに着目し、プロセスに働きかけることにより、クライアントが問題を解決していくことを支援する

専門家の役割がうまく機能するのは、クライアントの側が、どのような支援が必要なのかが分かっている場合。
医師の役割がうまくいくのは、クライアント、すなわち患者が診断結果に信頼を置いている場合。

そのような場合ではなく、例えば、クライアントが、何かがうまくいっていないと感じているが、それが何か分からないし、どのように問題をクリアにしていけば良いのかも分からないようなケースに、プロセス・コンサルタントが活躍する余地がある。
少し分かりにくいが、プロセス・コンサルタントというものについての私の理解は以下の通り。
■組織や職場で起きていることのうち、見えるのは氷山の一角であり、それを起こしているもの、起きていることの原因になっていることが水面下の見えない部分にある
■水面下にも多くのものがある。例えば、構成員一人一人の考え方や、構成員の間の関係性や、無意識のうちに従っている組織の規範や組織文化。これらを総称してプロセスと呼ぶ
■水面上に出ているものは、水面下にあるものの結果であり、水面上にあるものにいくら働きかけても問題の解決にはならない。問題は水面下に、すなわち、プロセスの中にあるので、プロセスに働きかけない限り問題の解決には至らない
■逆に言えば、水面下に働きかける人をプロセス・コンサルタントと呼ぶ

これでも分かりにくいけれども、今のところの理解はこういったところ

2021年3月6日

読書状況 読み終わった [2021年3月6日]

問題には2種類ある。それは、「技術的課題」と「適応を要する課題」である。
「技術的課題」は、正解がある問題。その問題の専門家が存在し、問題の所在に関して探るための診断をしてくれるし、その解決策を提示してくれる。例えば、医師と患者の関係が分かりやすい。健康診断、あるいは、場合によっては、精密検査を受けることにより、医師があなたの病気を特定してくれる。そして、投薬によって治療するのか、外科手術を施すのか、あるいは、しばらく様子を見るのか、などの解決策を提示してくれる。問題は簡単ではないことも多いが、正解を見出すための方法論が存在すると考えられている。
一方で、「適応を要する課題」とは、最初から正解が分かっているわけではない、あるいは、そもそも、問題が何かが分かっていない課題。色々なことを試みてみたり、あるいは、自分自身が変わったり、問題の関係者間の関係が変わったりすることによって、物事が良くなる方向に動いたりするもの。人間社会で起こる問題は、殆どが、これに属すると思う。例えば、コロナ禍における緊急事態宣言発出の可否。最初から正解が分かっているわけではないし、そもそも正解があるのかどうかも分からない。関係者・利害関係者も多いが、利害が同じであっても、意見が異なったりする。それでも、緊急事態宣言を発出するかどうかを決めなければならない。
私は、会社の中で人事の仕事をしている。会社の中の人に関する問題は、殆どが適応を要する課題である。会社の中の人事スタッフ、あるいは、他の職能のスタッフは、ある意味で、現場にとってのコンサルタントである。技術的課題に対応するのは、簡単ではないが、やれないということはない。人事で言えば、例えば、労働法の適用関係を問われる問題。条文があり、判例があり、それでも分からなければ弁護士に相談してみれば良い。一方で、例えば、「どうすれば、この職場の人間関係は良くなるのだろう?」とか、「若い人たちの育成にあたるマネジャーにどのように振る舞ってもらえば良いだろう?」など、正解があるかどうか分からない問題も多く、どちらかと言えば、こちらの問題の方が多い。

本書は、コンサルタントが、クライアントの問題を解決するにあたって、どのようなことを心がけるべきかを示してくれる。特に、「適応を要する課題」について。
会社の中のスタッフ部門の人は、読むべき本だと思う。

2021年3月6日

読書状況 読み終わった [2021年3月6日]

フィードバックについて、とても分かりやすく書かれている。中原先生は、もう一冊、「はじめてのリーダーのための 実践! フィードバック」という本を書かれている。どちらも、上司が部下に対して行うフィードバックについての入門・解説書であり、内容も似通っている。
本書は、とてもコンパクトで、フィードバックについて理解するには非常に良い入門書だと思うが、もう一冊の「はじめてのリーダーのための 実践! フィードバック」の方が、網羅的・実践的であり、どちらか一冊だけ読もれる方には、そちらをお薦めしたい。
人の仕事上の成長は、やや背伸びした目標にチャレンジすることによって主に起こると思うが、チャレンジするだけではなく、その経験を自ら振り返ると同時に、他者から仕事の出来栄えやプロセスに関してフィードバックによる気づきを得ることにより、仕事の経験が、より活きることになる。マネジャーにとっては、フィードバックは、自分のチームの業績を左右する大事なことであり、また、部下の成長を促すためにも大事なこと。

2021年3月6日

読書状況 読み終わった [2021年3月6日]

居酒屋の主人、兆治とお店・兆治自身に関係する人や出来事を描いた連作短編小説。14の短編から構成されている。
本作は高倉健主演で映画化されている。高倉健のイメージは、兆治にピッタリ来る。不器用で、自分なりの物事の良し悪しの判断基準があり、それに忠実。
物語は日常のあれこれに加えて、昔、兆治が付き合っていた、さよ、という女性が絡んで進んでいく。

山口瞳の本を読むのは久しぶり。
山口瞳は好きな作家の一人で、一時期は、かなり集中的に読んでいた。ブグログへの登録数を確認してみたら、15を超えていた。
私の山口瞳に対するイメージは、本作の主人公である兆治に対するイメージと重なる。不器用、正義感が強く、でも融通のきかない部分もある。いわゆる、頑固親父というイメージ。
小説も好きだが、エッセイ(随筆と言った方がピンと来る)が面白い。昭和の頑固親父の面目躍如といった感じだ。

2021年3月4日

読書状況 読み終わった [2021年3月4日]

ユヴァル・ノア・ハラリ、エマニュエル・トッド、トマ・ピケティ、ナオミ・クライン、マイケル・サンダルなど、世界的に有名な学者やジャーナリスト16名のインタビュー集。テーマは、コロナ禍についてのものが多い。本書の初版発行は2021年1月であるが、インタビューの多くは、コロナ問題発生初期に行われている。従って、今となっては誤っていたと分かっている推定に基づいて議論が展開されているものもある。

コロナが社会に与えたというか、与えつつある影響で思うことはいくつかある。

一つは経済的な格差が、更に拡大しつつあるのではないかという推測。
日経平均株価が30年以上ぶりに3万円を回復した。これによって潤うのは、株式に投資をしている人たち。普通に考えれば富裕層だと思う。一方で、非正規や派遣労働者やパートタイマーを中心に失業者が上がりつつある。
格差の話は本書でも何人かが語っている。
能力主義のことをメリットクラシーと呼ぶ。資本主義は、基本的にメリットクラシーの考え方をベースにしている。社会で成功した人たちは、そういう努力をした人たちなのだから、経済的に成功しても当然であるという考え方だ。
これは、一見フェアなように見える。が問題は、その程度。いくらなんでも今の状態は行き過ぎでは?という声が大きくなりつつあるように思うし、私もそう思う。
ピケティは、これに対して傾きの大きな累進課税などを提唱している。資本主義+傾きの大きな累進課税というのは、なるほどとも思う。

もう一つは、我々が政治家や官僚に甘くなっていないかということ。
安部さん、菅さんのというか、両内閣のコロナ対策の内容のなさ、スピード感のなさにはがっかりを通り越して、呆れる。また、菅さんの長男の接待問題、緊急事態宣言下での政治家の会食問題など、政治家・官僚のビヘイビアにも呆れるというか、呆れるを通り越して、笑うしかない。
ビジネスの世界で、これほど成果が出ずに不祥事が続く会社があったら、倒産しているくらいのレベルだと思う。
しかし、菅さんの支持率は、下がりはしたが、ある程度のところで持ち堪えている。これは、菅さんが首相を降りても、適当な後継者候補を思いつかないからではないか?政治の世界に人財がいなくなって久しい気がするが、それを当たり前のこととして受け入れているのではないだろうか。甘くなっているというのは、そういう意味。

2021年3月2日

読書状況 読み終わった [2021年3月2日]
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