孤独の海 (ハヤカワ文庫NV)

  • 早川書房
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本棚登録 : 17
感想 : 4
3

 冒険小説の巨匠マクリーンの、唯一の短編集。最後に出版された本だが、中身は逆に初期のものがほとんどで、長編第1作より前の、雑誌に投稿し入選して作家になるきっかけとなった短編も含まれている。

 戦争を背景にしたドキュメントタッチの作品は、戦いの中で船が沈む様子を描き出したものが多い。肌に粟が立つような迫力があるし、また読んでいて人間というのはこんなに簡単に死んでしまうものかと怒りさえ感じる。そしてその中に、ぎりぎりのところでの勇気や意地が発揮される一こまがあり、それが読んでいて心に食い込んでくる。傑作「女王陛下のユリシーズ号」と相通じる点がたくさんあって、実に読み応えがある。短編ということで、ぽいと投げ出すように物語が終わってしまうのも、余韻が感じられてとてもいい感じだ。

 一方でちょっとおしゃれだったりユーモラスだったりする短編もあり、そちらは中期のマクリーン作品の茶目っ気を感じさせる。長編だとどうしても重さを期待してしまうけれど、逆に短編だと、さらっと読める分いいかもしれない。特に、スパイの男女を取り上げた作品は、結末もなかなか気持ちがよくておもしろかった。

 全体としてはいい感じの短編集であった。フランシスもそうだけど、力の入った長編が書ける作家は、時々すてきな短編を書く。フルコースの中にさっとソルベが挟み込まれるようで、実においしく食べられるものだ。これが最後の本になってしまったのは本当に残念だけど。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外の小説
感想投稿日 : 2012年9月22日
読了日 : 2012年9月22日
本棚登録日 : 2012年6月3日

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