意外と言っては失礼になるのかもしれませんが、木内さんの既読作品と比べると終始明るめのトーンで物語が進むのが印象的でした。
前半から中盤にかけては、弱体化した母校の野球部の再建に主人公が試行錯誤する様子が描かれます。チームと共に成長していく姿はよく描けていると思いますが、コーチという役割上一歩引いた視点が多く、一高vs三高の試合の場面も少しはしょった感があり、期待したほどの臨場感は無かったかなと。そんなわけで第四章までは少々盛り上がりに欠けた印象を受けました。むしろ柿田の出奔とその後の顛末や、塁を見失うといったいったサイドストーリーのほうが面白かったです。
後半は「野球害毒論」を掲げる新聞社を相手に、野球とは何か、人生とは何かを探し求める展開が中心となり、こちらは大変興味深く読めました。現代の視点でみると野球に対して無茶苦茶な言いがかりが羅列され、記者の開き直りともとれる尊大な態度には呆れるばかりでしたが、それに屈せず立ち向かう主人公と押川という作家の姿には、野球を知らない読者にも大いに共感を生むんじゃないかと想像します。まあ本作の裏の主役は押川ですかね。下手だけど野球大好きなおっさんで、こちらを主人公にしてもよかったんじゃないかと思えるようなキャラクターでした。
押川に限らずどの登場人物も一人一人きちんと描かれている点も好印象で、総じて楽しめましたが、たぶん著者にとっては水準作の範囲内だと思うので、次はもっと凄い作品を期待します。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
木内昇
- 感想投稿日 : 2020年6月7日
- 読了日 : 2020年6月7日
- 本棚登録日 : 2020年6月7日
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