シェパ-トン大佐の時計 (岩波世界児童文学集)

  • 岩波書店 (2003年5月1日発売)
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感想 : 3
5

シェパートン大佐の時計は、デイビドのおじいさんが修理を頼まれ預かったまま、今もまだ引き取られるのを待っている。デイビドは、アーサー、ピーターとともに、その時計に隠された謎を解き明かすため、スリリングな冒険を計画し、実行していく。

書かれた時代が古く、なじみのない場所や事柄が出てくる。また、町の通りや教会内部の描写もかなり詳細でストーリーがなかなか進まない。だから、読み進めるのに苦労したし、退屈を感じることもあった。

けれど、いよいよ大佐の謎が解けていく10章あたりから、屋根上の鉛泥棒を追い詰めるラストにかけて、それまでの苦労が報われる楽しさが待ちうけていた。最後までがんばって読んでよかったって心から思った。通りや教会内部の詳細な描写もラストでしっかり生かされていて、あっ必要だから細かく書いていたんだなって納得した。これだから、途中で投げ出そうかなという考えが頭をよぎっても、頑張って読もうと思える。特に名作は。

時計の秘密を解いて終わりかと思っていたら、その後に少年たちの大活躍が用意されていたところがすごくよかった。時計の秘密を解いたことで芽生えた大佐への尊敬の念が、泥棒と対峙する際にデイビドに何度も勇気を奮い立たせ、頭を働かさせていく。大佐のことがデイビドの頭をよぎるたびに胸が躍った。

また、その尊敬の念が泥棒事件後も少年たちの心を離れず、次のデイビッドのセリフにつながっていくところも素敵。「墓石、町の音楽隊、追悼式、頌歌の依頼。大佐をちゃんとしてあげられるよ。」感動した。

足の悪いデイビドをアーサーとピーターが支えながら、当然のように冒険に誘い出すところもいい。デイビドを足手まとい扱いをせずに必ず3人で冒険を計画し、実行するのは気持ちがいいし、冗談を言い合ったり、馬鹿をし合ったりする姿も微笑ましい。3人の友情はすばらしかった。

また、こうした信頼できる友達や大人たちに囲まれて、足の悪いデイビドが「いつもほかの人とちがうというおそろしい心の重荷」を降ろし、自信を持ち始めていくところもいい。こうしたデイビドの成長を描いている点に、この物語の深みを感じた。デイビドの果敢な作戦の提案に、アーサーが尊敬の響きをこめて「諒解。そのとおりにしよう。」と答える場面は胸が熱くなった。「デイビドは、あとあとまでそれを忘れなかった。」という一文がすごくよかった。

苦労したけど、最後まで読めてよかった!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 高_物語
感想投稿日 : 2024年1月7日
読了日 : 2024年1月7日
本棚登録日 : 2024年1月7日

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