ムハマド・ユヌス自伝: 貧困なき世界をめざす銀行家

  • 早川書房 (1998年9月30日発売)
3.91
  • (61)
  • (62)
  • (74)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 651
感想 : 65
5

「2050年、貧困が見られる場所は<貧困博物館>だけになる」

先月バングラデシュ人で初めてノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏の言葉。彼は貧困なき世界を目指して、貧困者向けに無担保融資を行うグラミン銀行を創設した。

この本は彼の自伝だが、それは=グラミン銀行の歴史でもある。
グラミン銀行がどのような経緯で作られ、どのような道を辿ってきたのかがエピソードを交えて書かれているのでとてもわかりやすく、現実味がある。

ユヌス氏が経済学の理論に夢中になり、大学教授をしていた1974年、バングラデシュは大飢饉に見舞われた。あらゆる経済問題を解決してくれるものだと信じていたエレガントな経済理論と目の前で餓死していく人々のギャップに虚しさを感じたという。

彼は、世界の開発援助機関と仕事をしているが、それらの援助機関に対してもはっきりと不満を述べる。
彼の言い分、実際にあった援助業界の裏話を読み、援助機関・開発コンサルタントとそして政府によって紙面上で決定される開発プロジェクトがいかに無駄であるかということを説得させられてしまった。

彼の視点は援助機関というマクロなレベルにとどまってはいない。人として、生活していく上でのミクロな視点も忘れていない。
それは、開発途上国物に行って物乞いに取り囲まれたことがある人は必ず直面する、「物乞いの人々・子どもたちにお金を渡すかどうか」という葛藤。

お金をあげることで彼らの依存性を高めてしまうことになるし、労働意欲、自活意欲を奪い去ってしまうことになるとあたしは考える。
でも、「この10タカでこの人たちが一食を食べられるなら・・・10タカくらい・・・」とも思う。

ユヌス氏も常にこの葛藤を抱えていると述べている。
でも、彼はお金をあげることはしないそう。
それは、「私たちはお金をあげることで現実の問題から私たち自身を遠ざけているだけ」というのが彼の考えだから。
私たちにとってはほんのわずかな額をあげることで、善い行いをしたと思っていい気分になるのは、本当は問題を解決しようとする代わりにお金を放りなげて歩き去ってしまっていることで、何の解決にもつながらない。

ユヌス氏はこれまでの理論でガチガチに固められた経済学にこだわる経済学者とは違う。マイクロクレジットという銀行システムを通して、目の前の貧困を削減することに挑戦する実務家だ。

マイクロクレジットが実際に貧困削減にどのくらい効果的なのかは議論の余地があるところだが、彼の信念・方向性を支持したい。

貧困博物館の1日でも早いオープンを望む。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: バングラデシュ
感想投稿日 : 2019年3月4日
読了日 : 2006年11月24日
本棚登録日 : 2007年2月3日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする