都市をオープンスペースという視点から考え直してみようという槇文彦の投げかけに対して、建築家だけではなくランドスケープデザイン、アート、社会福祉、法律といった様々な領域の専門家が応答した文章を集めた本。
都市をオープンスペースから考える必要性は、都市というものがあらゆる種類の人々を包摂する必要があるものであり、また社会の流動化、多様化に伴って、これまで以上に柔らかくしなやかな受け止めが必要な時代になってきたということがあるのだと思う。
これまでの「建築」という行為やその成果物が、目的を明確にしたうえで合理的に機能と空間を構築していくというやり方で作られてきたため、建築のみで構成される都市をイメージすると、しなやかさや曖昧であるが故の柔軟性といったものは、不足することになってしまう。
「オープンスペース」という概念はそれを補ううえで重要なものになっていくのだろう。
したがって、「オープンスペース」といっても、いわゆる敷地内の公開空地を対象とするより、路地であったり公園であったり、空家であったりと、その対象としては様々なものが取り上げられている。
そのような物理的なスペースのみならず、法の「余白」としての規定や解釈のすきまを都市づくりにいかに活用していくかといったことも、本書の中で取り上げられている。
また、物理的空間であっても、その作り方だけでなく、同じ場所でも管理(ルール)のあり方によって全く使われ方が変わっていく様子、また身体障碍者の空間把握の方法や移動の方法を参照することで、空間自体が新たな見え方をするといったことまで取り上げられており、視野が広がった。
大正時代の「街路構造令」には、現在でもある「道路」という概念とは別に、沿道の建物や街路樹なども含んだ「街路」という概念があり、沿道の経済活動に寄与することが目的とされていたという事実も、この本で初めて知ることができた。
オープンスペースというものは、空間の形状や与えられた機能だけで規定されるものではなく、使われ方やその意図、使い手のコミュニティのあり方といったものによって形成されてくるものであるために、このような幅の広い視点からの議論を積み重ねていくことが必要なのだと思う。
- 感想投稿日 : 2019年6月6日
- 読了日 : 2019年6月5日
- 本棚登録日 : 2019年6月2日
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