RePUBLIC 公共空間のリノベーション

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  • 学芸出版社 (2013年9月15日発売)
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「公共空間」という呼び方で一義的に呼ばれてきた空間を地域のために活用していくための方法論を、豊かな事例で紹介した本。

まず、所有や管理の状況から考えると、公共空間(=パブリック・スペース)の中にも、公共性の3つの類型から導き出されるパターンがある。

・オフィシャル・スペース=主に行政が利用・管理するスペース

・コモン・スペース=その場を取り巻く複数の人々が共通の利害を有しながら使っていくスペース

・オープン・スペース=誰もがアクセスすることを拒まれないスペース

これまで、「パブリック・スペース≒オフィシャル・スペース」という捉えられ方で、利用の公平性、管理の画一性によって縛られてきた空間や、あまりにオープンであるがゆえに誰もその場に利害関係を持たず、そのためにその空間をよりよくしていく動機付けも働かなかった空間が、非常に多かったように感じる。

このように類型化をしてみると、その場の課題が何なのか、浮かび上がってくる。

そのうえで、本書では
・公園
・役所
・水辺
・学校
・ターミナル
・図書館
・団地
という7種類のパブリック・スペースを取り上げて、それらをどのようにすれば豊かに活用される空間に変えてゆけるかを紹介している。

紹介は、活用のための法制度や事業のスキームを考察した「理論」の部分、国内外の事例を紹介する「実践」の部分、まだ実現はされていないもののこのような取組ができるのではないかという「アイデア」の部分があり、多くが見開き読み切りで写真を見ながらテンポよく読んでいける(よく、これだけの少ない文章や写真でその事例の核になる部分を紹介していけるものだと、そのプレゼンテーション力にも感心する)。

内容や事例としては知っていたものも知らなかったものもあるが、以下、いくつか印象に残った内容を列挙。


○羅東鎮限運動場(台湾・宜欄市)

都市の真ん中に400mの本格的な陸上競技トラック。周辺に観客席や柵などはなく、図書館、学校、シアターなどとそのまま隣り合っている。トラックの中は森。

競技ができる仕様のトラックなので、陸上のトレーニングをしている人もいれば、散歩をしている人もいる。隣接する小学校の体育の授業もここでおなわれる。

ものすごく機能特化したものであるはずの陸上競技用トラックをあえて無造作に街の中心に置くことで、逆に空間に多様性や自由度が生まれている。


○水上レストラン「WATERLINE」(東京・天王洲)

行ったことはないが、その姿は見たことがある水上レストラン。これを可能にした法的な仕組みはおおよそ以下の通り。

水上に浮かべた船は、その台船部分は船舶、上部の客席部分は建築物の扱い。それぞれ、船舶検査と建築基準法の確認受ける必要がある。
(3ヶ月以上同じ場所に停泊している場合、建築物の扱いを受けるため)

また、計画敷地である水面は、都市計画法上の市街化調整区域に該当するため、新しい建築物は原則建てられない。しかし、隣接する既存の倉庫をリノベーションするとともに増築する形とすることで建築が可能となる。


○河川敷利用のための河川法および関連諸制度の改正

1997年の河川法改正を皮切りに、河川の総合的な管理と利用の自由度向上の方向でさまざまな制度が改正されてきている。

1999年:河川敷地占用許可準則施行
  河川敷利用の具体的な手続きが定められる。

2005年:河川敷地占用許可準則改正
  河川敷地の利用を「社会実験」という形で認める制度を構築。
  短期的なイベントや施設の設置が認められる。

2011年:河川敷地占用許可準則再改正
  河川敷地の利用について、特例許可の制度が設けられる。
  具体的な利用の条件は各地方自治体が定める。
  東京都では渋谷川(渋谷駅南側)と隅田川(浅草駅付近)が許可取得。


○小学校の余裕教室活用について

比較的新しい小学校の場合、施設の償還が終わっていない場合がある。その場合、当初の目的である小学校以外の機能に転用する場合、整備時の国庫補助分を返納する必要がある。

しかし、現在では制度の変更が行われ、一定の条件を満たすことで返納ではなく報告書の提出で転用が可能となっている。


○アーツ千代田3331(東京・旧千代田区立練成中学校)

施設の改修、運営を、千代田区公募により選定された有限責任会社(LLC)コマンドAが行っている。

コマンドAは施設を一棟借り(マスターリース)し、FM(ファシリティ・マネジメント)、BM(ビル・マネジメント)の他、ギャラリーの運営、イベントの企画、アーティスト・イン・レジデンス等の活動を展開する。

また、コマンドAの母体でもある一般社団法人コマンドNのアート活動とも連携している。

空間はコマンドAからテナントにもサブリースされており、その賃料は、そのテナントの収益性、公益性などにより3段階に設定されている。


○SUN SELF HOTEL(茨城県取手市井野団地)

期間限定で、団地の空き部屋を借りて行われたアートイベント。

ホテルマンは団地この団地に住んでいる住民。ホテルマンと宿泊客が協力して、日中に特製のソーラーワゴンで団地内で電気を集め、その集めた電気で、夜に「太陽」を光らせることで、客室で使う電気を賄う。

宿泊客と団地のホテルマンが協力してホテルをオペレーションすることで、団地の魅力を楽しく伝えていくことができる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年12月28日
読了日 : 2013年12月26日
本棚登録日 : 2013年12月26日

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