自由からの逃走 (1966年) (現代社会科学叢書)

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人間の歴史は自由が増大していく過程であると同時に、それによって、これまで安定感を与えてくれていた社会的紐帯(束縛)がなくなることによる不安が増大していく過程でもある。

そして、人間の性格はその心理の内奥にある欲求(フロイトが定義したような)によって決定されるのではなく、フロムが「社会的性格」と名付けた社会との相互作用によって形作られるものである。

フロムはまず、中世からルネサンスへの移行期に人間が解放されたことによって訪れた「不安」に、ルッターやカルヴィンの思想が応え、これまで外的(社会的)な制約によって支えられてきた人間の精神的な安定が、内面的な規制である倫理的な思想によって置き換えられていった流れを分析する。

そして、時代が下り、近代における人間がそのような事態(中産階級に訪れた、資本主義による経済的な自由の解放)にどのように対処しようとしているかを分析する。

その分析のツールとなる「逃避のメカニズム」として、
・権威主義:個人に欠けている大きな力を得るため外部の権威と自己とを同一させようとすること
・破壊性:外界に対する無力を乗り越えるため外界の脅威をすべて破壊しようとすること
・機械的画一性:個人が自分自身であることをやめ外部から与えられるパーソナリティを完全に受け入れること
の3つを挙げ、人間が自由(のもたらす不安)からどのように逃避するのか、その仕組みを明らかにする。

そのうえで、フロムは彼がこの本を著した最大の契機となったナチズムという当時の新たな社会的状況について、この分析を当てはめ、なぜナチズムが台頭するのかを明らかにする。

ナチズムは、上記の逃避のメカニズムのうち、権威主義的な側面が強く現れた事象として語られる。そして、ここまでにフロムが解き明かした「自由のもたらす不安」とそれに対する「逃避のメカニズム」をもとに考えることにより、ナチズムはヒトラーの個人的性格や第一次世界大戦後のヴェルサイユ条約の不備に代表される経済的要因だけによって生まれたものではないということが明確になる。

逆に、ナチズムを心理的要因のみのよって生まれたものと考えることも間違いである。心的な状態は社会との相互作用によって生まれるものであり、フロムはそれを「社会的性格」と呼んだ。

この社会的性格と社会構造がダイナミックに相互作用することで互いを再生産していく様を明らかにしたということが、本書の非常に重要なところであると思う。

ナチズムの台頭に対する大きな危機感を持ち、それを「自由への逃避」という人間の社会的性格の問題として構造化したということだけでもこの本の重要性は非常に大きい。

しかしそれだけでなく、移動の自由、情報の流通速度の飛躍的拡大、資本主義のグローバルな拡大という新たな自由の波が訪れている現代において、どのような新しい社旗的性格が生まれ、社会の構造に変化をもたらすのかを考えるための視座を与えてくれるという意味でも、いまなお重要性を失わない名著であると思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2018年6月11日
読了日 : 2018年5月27日
本棚登録日 : 2018年5月7日

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